エピソード・ゼロ
J・M・ガセロンがバランジェの研究をまとめた小冊子は三部構成になっている。その第1章はガセロンとバランジェの出会いに関する主観的な記述であり、私たちの関心事との直接的な関係はない。第2章はバランジェの研究に関する具体的な記述、特に1970年10月に公表された「最終報告書」を軸に彼の研究手順や実験結果の評価について記されている。
そして第3章ではバランジェとアカデミーとの関係性について、これまで明らかにされていなかった事実が収録されているが、それは『フリタージュの真実』のプレヒストリーとも呼べるものである。
『フリタージュの真実』はケルヴランの研究活動の全貌をフランス農学アカデミーでの論争を佳境として描き出しているが、その所々にはバランジェの存在が影を落としている部分がある。その最たるものはステファーヌ・エニンが公表したスービエ・ガデ論文だろう。この論文の経緯はこれまで謎とされていたが、ガセロンの記述によるとケルヴランの「異端審問」以前にバランジェとアカデミーとの間に生じた確執から派生したものであることが伺える。
まずは『フリタージュの真実』のエピソード・ゼロともいえるバランジェとアカデミーの関係性について焦点を当てていきたいと思う。
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