« 2018年10月 | トップページ | 2018年12月 »

2018/11/20

不可侵の領域

L・ラーセンのレポートは一見ドクターの研究を肯定的に評価しているように見える。しかしその記述に異和感を覚えない人間はフリタージュを追究する資格はない。

まず最初に、ラーセンは反応の起点となるSPP電子がどこで生じるのかを明記していないが、その反応プロセスに基づくとマンガンに表面プラズモン共鳴が生じると考えるのが妥当である。しかしメスバウアー実験では培養基の成分のマンガンは重水の中でイオン化しているはずである。すでに電子を失ってプラスイオンになっているマンガンに表面プラズモン共鳴が生じるという研究は寡聞にして聞いたことがない。

仮にイオン化していないマンガンからSPP電子が生じるとしても、培養基は重水なのでSPP電子は陽子ではなく、すでに中性子と結合している重陽子と反応することになる。重陽子に含まれている中性子はULM中性子とは異なるエネルギー状態であり、はたして共存しうるのかは非常に疑わしい。

またSPP電子と陽子が結合してULM中性子が生成されるには0.78Mevというエネルギーが必要になるが、ラーセンはこのエネルギーが260万個のATP分子によって供給されると述べている。

生体組織が解糖系・TCA回路・電子伝達系の様々な代謝反応を実行するのは直接的な生存エネルギーとなるATP分子を合成するためである。1個のULM中性子を作るために260万個のATP分子のエネルギーが使用されるというのは生体反応としてあまりにも非効率である。

メスバウアー実験で鉄57の原子が生成される個数の概算は以前に記したが、ラーセンが引用している大腸菌のATP合成率では1秒間に生成されるULM中性子は4個に過ぎないので、鉄57の原子は2個以下になる。このことからもラーセンがメスバウアー実験の論文を精査していないことは明白である。

またラーセンの反応プロセスではマンガンから鉄56が生成され、さらにそれが鉄57に転換するとされているが、もしそうなら鉄56と鉄57はほぼ同じ変動を示すはずである。しかしこれはレーザーTOFによるドクターの分析データとは矛盾している。

そもそも鉄56によって細胞内の鉄濃度が増加すれば、微生物はさらに鉄57を生成する必要はない。ラーセンは微量元素の生物学的アノテーションを全く理解していないので、このような反応式を偽装工作するしか能がないのだろう。

純粋な好奇心をもって生物学的元素転換を研究する志をもっている人は歓迎したいが、自分の理論やモデルを権威づけるためにフリタージュを利用しようとする者はこの領域に足を踏み入れることは許されない。その際にはわれわれは容赦なく手痛い教訓を与えることになるだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018/11/12

ラーセンの論点

L・ラーセンのレポートはいわゆる研究論文の記述形式ではなく、詳細な内容について不明確な部分も少なくない。その文脈の中で彼がメスバウアー実験について言及している部分を以下に引用してみることにしよう。

「酵素の活性部位や細胞の膜組織は生物学的元素転換の発生が予想される場所である。このような場所で元素転換反応が生じるという可能性は生物物理学的プロセスに関する現在の私たちの知識とどのように関連しているのだろうか?」

「生物学的元素転換の理論的なエネルギーとしては、1個の陽子から1個のULM中性子を生じるために260万個のATP分子に相当するエネルギーが必要とされる。」

「インターネットで私が見つけた概算では、大腸菌の1個の細胞は1時間にATP分子を0.8-4.0×10^10個も生産し続けることができるということである。ULM中性子の製造コストはバクテリアにとってかなり高額なものになるが、その結果が成長のために重要なものであれば非効率とは言えないかもしれない。」

「もし読者がヴィソツキーとコルニロバの初期の研究を調べたなら、数種類のバクテリアが鉄を利用できない培養基において、マンガン55から鉄56,57を以下のようなプロセスで合成していると考えられる実験的証拠を見出すだろう。」

このように述べて、ラーセンは次のような反応プロセスを提示している。

(1)Mn55+n→Mn56 (半減期2.6時間の放射性同位体)
(2)Mn56→Fe56+ニュートリノ (ベータ壊変)
(3)Fe56+n→Fe57

このような反応形式で鉄57が形成されたと彼は主張しているが、読者の方々はどう思われるだろうか?
いま一度、ドクターの著作に目を通して、ラーセンの論点を検討して頂きたい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018/11/02

ウィドム・ラーセン理論とフリタージュ

A・ウィドムとL・ラーセンが常温核融合のメカニズムを説明する新しい理論を提示したのは2005年のことである。このウィドム・ラーセン理論は、ある種の金属に生じる表面プラズモン共鳴によって特殊な性質をもつSPP電子(表面プラズモン・ポラリトン)が生成され、それが陽子と結合することによって生じるULM中性子が特定の元素の原子核に吸蔵されることにより、核変換が生じるというシナリオを原理的な軸としている。ウィドム・ラーセン理論の最大の特徴はベータ壊変の逆の反応プロセスによってクーロン・バリアーの問題を巧妙に回避している点にある。

Bacterialenrsandisotopicshiftsinu_2この理論の提唱者の一人であるL・ラーセンは2010年12月に一つのレポートを公表している。それはウランの同位体比の異常はバクテリアの低エネルギー核変換によるものであり、そこにはウィドム・ラーセン理論の反応プロセスが生じていると主張しているのである。

もしこのラーセンの主張が正しいのであれば、たとえばガボン共和国のオクロで発見された「天然原子炉」も実は中性子連鎖核反応ではなく、バクテリアによる元素転換反応によるものだったという可能性も考えられる。その意味でラーセンの主張はわれわれフリタージュ学派に好意的なものとも言えるだろう。

そしてこのレポートの中でラーセンは、ドクターが行なったメスバウアー実験についても記述している。その内容について少し綿密に検討してみることにしよう。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2018年10月 | トップページ | 2018年12月 »