フリタージュの実験的課題
フリタージュ反応のもう一つの公理、それは「元素転換反応はその生物にとって必要不可欠なプロセスとして生じる」というものである。ここで注意してもらいたいのは、フリタージュ反応は必ずしも必要な元素を生み出すためだけではなく、反応プロセスそのものに意味があるということである。
これについてはいずれ生物学的アノテーションの問題として検討したいと思うが、メスバウアー実験にこの公理を当てはめると、元素転換反応が生じたのは細胞内の鉄濃度を上昇させるためであると考えることができる。
問題はそれがどのような形で生じたのかということだが、シデロフォアのレギュレーターのFurは鉄分欠乏の危機を把握していたはずである。大腸菌は最適な培養条件では20分で細胞分裂を繰り返すことができるが、鉄分がなくなると細胞分裂が停止するという最悪の事態に陥ることになる。
この危機的状況においてFurはフリタージュという最後の切り札を使うために、マンガンのレギュレーターであるMntRに何らかのフィードバックシグナルを送っているはずである。
MntRはマンガントランスポーターの遺伝子を制御しているレギュレーターであり、Mn+d=Fe57という転換反応に重要な役割を果たしていると考えてよい。このFurとMntRのレギュレーター間のシグナルを検出することが、フリタージュ反応の実体的なメカニズム解明の第一歩になるだろう。
しかしながら現代の分子生物学では金属応答レギュレーターが相互にシグナルを送受信するという事実を示す研究例は報告されていない。元素転換反応のメカニズムを明らかにするためには、このような実験的課題をクリアする必要があるのである。
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