フリタージュの公理
1989年のM・フライシュマンとS・ポンズの常温核融合の発見に啓発を受けたドクターは、同僚の物理学者R・N・クズミンと固体結晶におけるコールドフュージョンの研究を開始した。そして1991年の国際会議でそこにおける重水素の異常な作用について報告している。
すでにケルヴランの研究を知っていたドクターは同様のプロセスが生体組織でも生じているのではないかと考えた。そこでモスクワ大学のA・A・コルニロバ博士、ガマレヤ研究所のI・I・サモイレンコ博士の協力の下に生物学的元素転換の研究を本格的に進めるようになった。その成果は数々の論文や『生体系における同位体の元素転換と核融合』に収録されている。フリタージュ反応を包括的に理解するには、まずドクターがこれまでに行なった研究を精査する必要がある。
比較的初期に行なわれた研究の一つとして、マンガンから鉄57が生成される元素転換実験がある。この実験は一見思いつきで行なわれたように見えるが、実際は綿密に検討されたプロトコルに基づいている。
鉄はあらゆる生物が必要とする微量元素でありながら生体内で合成することはできない。また鉄57は常温でメスバウアー効果を生じる稀少な同位体である。ドクターはキエフ大学在学時にV・I・ヴォロンツォフ教授の指導の下にメスバウアー効果をテーマとする修士論文を提出しており、メスバウアー分光法には精通している。従ってこの実験データは非常に信頼性が高いと考えることができるのである。
このメスバウアー実験で注目すべきことは、酵母・大腸菌・放射能耐性菌といった異なる種類の微生物が使用されており、転換効率は異なるが、いずれもMn55+d2→Fe57というフリタージュ反応が検出されているということである。
酵母は通性好気性の真核生物、大腸菌は通性嫌気性の原核生物、放射能耐性菌は好気性の真正細菌である。もしこれらの微生物が同じ元素転換反応を生じているとすれば、次のような公理が導き出されることになる。
「フリタージュ反応は細胞の構造や分裂形式、呼吸形態等に依存しない普遍的な反応である」
はたしてこの公理は本当に正しいのだろうか?その答えを求めてさらに問いを深めることにしよう。
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