« 2018年4月 | トップページ | 2018年6月 »

2018/05/27

大腸菌と酵母

メスバウアー実験に使用されている大腸菌と酵母はモデル生物として広範に研究が行なわれており、ゲノム配列も解明されている。しかしこの両者に共通点を見出すことはかなり困難である。

大腸菌のゲノムは464万塩基対であり、酵母のゲノムは1206万8千塩基対である。つまり酵母のゲノムサイズは大腸菌の約2.6倍に相当しており、両者にはGcpオルソログのような相同性をもつ配列も知られているが、それらは機能未知遺伝子として研究が続けられている。

大腸菌のゲノムは1本の環状染色体に含まれていて核を持たないが、酵母のゲノムは16本の線状染色体に含まれていて核内に収められている。原核生物の大腸菌は二分裂によって個体を増やしていくが、真核生物の酵母は有糸分裂によって増殖する。当然ながらそれぞれの細胞分裂を制御するシステムも全く異なっている。

さらに大腸菌と酵母ではDNA情報の転写メカニズムも似て非なるものがある。環境条件の変化に対応するため、原核生物のゲノムにはオペロンと呼ばれる遺伝子クラスターが形成されており、RNAポリメラーゼがオペロンのプロモーター領域に結合することによって転写制御が行なわれている。しかし真核生物のゲノムでは複数の染色体にレギュロンと呼ばれる遺伝子が分散しており、様々な転写因子によってより高度な転写制御が行なわれているのである。

このように大腸菌と酵母は細胞の構造も遺伝子発現の機能も異なっており、元素転換に限らず同じ生化学的プロセスを生じるとは考えにくい。唯一の共通点は、両者はいずれも生存のために鉄を必要としているということである。この鉄と微生物の関係性について次に見ていくことにしよう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018/05/18

フリタージュの公理

1989年のM・フライシュマンとS・ポンズの常温核融合の発見に啓発を受けたドクターは、同僚の物理学者R・N・クズミンと固体結晶におけるコールドフュージョンの研究を開始した。そして1991年の国際会議でそこにおける重水素の異常な作用について報告している。

Block_image_2_1_4すでにケルヴランの研究を知っていたドクターは同様のプロセスが生体組織でも生じているのではないかと考えた。そこでモスクワ大学のA・A・コルニロバ博士、ガマレヤ研究所のI・I・サモイレンコ博士の協力の下に生物学的元素転換の研究を本格的に進めるようになった。その成果は数々の論文や『生体系における同位体の元素転換と核融合』に収録されている。フリタージュ反応を包括的に理解するには、まずドクターがこれまでに行なった研究を精査する必要がある。

比較的初期に行なわれた研究の一つとして、マンガンから鉄57が生成される元素転換実験がある。この実験は一見思いつきで行なわれたように見えるが、実際は綿密に検討されたプロトコルに基づいている。

鉄はあらゆる生物が必要とする微量元素でありながら生体内で合成することはできない。また鉄57は常温でメスバウアー効果を生じる稀少な同位体である。ドクターはキエフ大学在学時にV・I・ヴォロンツォフ教授の指導の下にメスバウアー効果をテーマとする修士論文を提出しており、メスバウアー分光法には精通している。従ってこの実験データは非常に信頼性が高いと考えることができるのである。

このメスバウアー実験で注目すべきことは、酵母・大腸菌・放射能耐性菌といった異なる種類の微生物が使用されており、転換効率は異なるが、いずれもMn55+d2→Fe57というフリタージュ反応が検出されているということである。

酵母は通性好気性の真核生物、大腸菌は通性嫌気性の原核生物、放射能耐性菌は好気性の真正細菌である。もしこれらの微生物が同じ元素転換反応を生じているとすれば、次のような公理が導き出されることになる。

「フリタージュ反応は細胞の構造や分裂形式、呼吸形態等に依存しない普遍的な反応である」

はたしてこの公理は本当に正しいのだろうか?その答えを求めてさらに問いを深めることにしよう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018/05/13

フリタージュ研究の深層

第3回フリタージュ会議ではドクターの講演に加えて私個人の見解も補足的に解説したが、参加者の方には少し難しい印象を与えたかもしれない。しかしそろそろ次の段階に歩を進めるべきだろう。私たちは他の追随を許さないレベルまでフリタージュの本質を追究しなければならない。

ドクターはこれまで様々な微生物を使用して多岐にわたる元素転換実験を行なっており、その成果は数々の論文や『生体系における同位体の元素転換と核融合』に記述されている。しかしそれらの内容を受動的に読んだだけでは本質的に理解したとは言えない。その研究背景を踏まえた上で、いかなるアプローチが可能なのかを様々な角度から検討する必要がある。

たとえばドクターは大腸菌や酵母、共生培養菌のMCTやメタン菌を使用して元素転換実験を行なっているが、これらの微生物について少しでも調べたことのある人はいるだろうか?私は誰一人いないと思う。

微生物は好気性と嫌気性、原核生物と真核生物、独立栄養と従属栄養など様々な分類方法があり、また真性細菌、古細菌、真核生物といったドメインにはそれぞれの特徴がある。このようなことは微生物学の基礎だが、こうした基礎知識も知らずにドクターの研究を理解したつもりになってもらっても困るのである。

かなり以前の話だが、ある人はサイト上でドクターの研究を「好気性メタン菌による元素転換実験」と紹介していた。残念ながらメタン菌は全て嫌気性であり、好気性メタン菌など存在しない。その人はメタン菌のことも知らず、ドクターの研究内容も理解しておらず、タイトルを間違えて翻訳してさも知っているようなことを書いていた。人間恥を恥と思わなければ、恥をかくことはないようである。

ドクターが使用している微生物について調べると、当然のことながら様々な疑問が湧いてくるはずである。
たとえば大腸菌は嫌気性の原核生物であり、酵母は好気性の真核生物である。原核生物と真核生物は細胞の構造や分裂形式が異なり、ゲノムサイズも遺伝子の転写制御メカニズムにも格段の差がある。それなのに大腸菌と酵母はなぜ同じフリタージュ反応を生じることができるのか?

少なくとも私はこのような質問を誰からも受けたことがない。それはドクターの研究に表面的な関心はもっているが、誰一人としてその本質を真剣に追究する者がいないことの証左でもある。

私たちはもはやそんなレベルの「ごっこ」に付き合っている暇はない。はたしてフリタージュの本質的なメカニズムの解明にいかなるアプローチが可能なのかを今後検討していきたいと思う。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2018/05/04

水とガラスのメモワール

Glass_pole4月下旬、荒川尚也氏の個展が倉敷で開催されるというDMを受け取ったので、会場のギャラリーに足を運んだ。荒川氏は京都在住のガラス工芸家だが、2年前の個展にも参加していろいろとお話を伺ったことがある。

個展会場のギャラリーに着くと様々なガラス作品が展示されていた。日曜日だったがそれほど人も多くなかったのでゆっくりと作品を鑑賞することができた。荒川氏のガラス作品は、珪砂から可能なかぎり不純物を除去した透明度の高いガラスに特殊な技法で気泡が封入されている。それは流れている水がそのままの形で固まったような流動性と結晶性が感じられる作風である。

久しぶりに荒川氏とお会いして、作品の制作工程やガラスの成分組成・膨張率や徐冷のときの温度管理など興味深いお話を伺った。特に興味深かったのは、荒川氏の知人に日本酒の杜氏をしている人がいて、ガラス瓶から溶け出す微量成分によってお酒の味が変わることがわかるという話だった。

昼下がりのギャラリーでゆったり寛ぎながら、私は水とガラスの相似性について思いを巡らせていた。水が生物界の底流を支えているように、ガラスは鉱物界の代謝作用を司る存在である。水がシューマン共振によってクラスレート構造を形成するように、ガラスも地震波の影響などによって水晶に相転移することもあるのかもしれない。

現に珪素を含むシリコン・クラスレート化合物も存在しているので、水と同じようにガラスも太古の記憶を保持しているのかもしれない。古代の勾玉がガラスで作られていたのも何らかの意味があるのだろう。

Dsc_0002荒川氏との会話からいろんな着想を巡らせたあとにガラス作品を数点頂いて個展会場を後にした。しばらくはその器で杯を重ね、水とガラスの瞑想を深めたいと考えている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2018年4月 | トップページ | 2018年6月 »