大腸菌と酵母
メスバウアー実験に使用されている大腸菌と酵母はモデル生物として広範に研究が行なわれており、ゲノム配列も解明されている。しかしこの両者に共通点を見出すことはかなり困難である。
大腸菌のゲノムは464万塩基対であり、酵母のゲノムは1206万8千塩基対である。つまり酵母のゲノムサイズは大腸菌の約2.6倍に相当しており、両者にはGcpオルソログのような相同性をもつ配列も知られているが、それらは機能未知遺伝子として研究が続けられている。
大腸菌のゲノムは1本の環状染色体に含まれていて核を持たないが、酵母のゲノムは16本の線状染色体に含まれていて核内に収められている。原核生物の大腸菌は二分裂によって個体を増やしていくが、真核生物の酵母は有糸分裂によって増殖する。当然ながらそれぞれの細胞分裂を制御するシステムも全く異なっている。
さらに大腸菌と酵母ではDNA情報の転写メカニズムも似て非なるものがある。環境条件の変化に対応するため、原核生物のゲノムにはオペロンと呼ばれる遺伝子クラスターが形成されており、RNAポリメラーゼがオペロンのプロモーター領域に結合することによって転写制御が行なわれている。しかし真核生物のゲノムでは複数の染色体にレギュロンと呼ばれる遺伝子が分散しており、様々な転写因子によってより高度な転写制御が行なわれているのである。
このように大腸菌と酵母は細胞の構造も遺伝子発現の機能も異なっており、元素転換に限らず同じ生化学的プロセスを生じるとは考えにくい。唯一の共通点は、両者はいずれも生存のために鉄を必要としているということである。この鉄と微生物の関係性について次に見ていくことにしよう。
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