波乱の予兆
11月21日、私は電車を乗り継いで成田に向かっていた。次の日に来日するドクターを迎えるために。
私は旅が嫌いなわけではない。しかし小汚い都会の雑踏はどうも好きになれない。できれば風情のある田舎のほうが好きなのだが、ドクターの来日なら仕方がない。覚悟して臨むまでである。
11月22日、この日のAM9:45にドクターの搭乗した飛行機が到着すると聞いていたので、私は成田空港に向かった。成田空港にはターミナル1とターミナル2があるが、どちらに到着するかははっきりしていなかったので、とりあえず手前のターミナル2に向かった。ターミナル2の国際便到着ゲートに行くと、フライトボードにAM9:45のイベリア航空便がすでに到着していた。通関に1時間ほどかかると聞いていたので、そのうち出てくるだろうと気長に待つことにした。
ところが11時半が過ぎてもドクターはゲートから姿を見せなかった。出てくるのは後続の便の乗客らしくヨーロッパ系ではない。何かがおかしいと気づくのに時間はかからなかった。
ドクターの行動パターンを考えると、到着ゲートから出て下手に動くことは考えられない。そこで構内アナウンスをかけてもらったが一向にドクターの姿は見えないし、第一気配が感じられない。
このままここにいても無駄だ。そう思って一旦ホテルに戻ることにした。ドクターを迎えに行くだけだと思ってスマホや携帯は置いてきたが、ホテルに戻ると案の定、ドクターと七沢研究所から連絡が入っていた。それによるとドクターはターミナル2ではなくターミナル1で待っているという。
私はエレベーターでスマホを操作しながら、もう一度空港に向かった。ターミナル1の待合室にいるドクターを見つけたのは午後1時過ぎのことだった。
ドクターもパソコンからメールを送っていたが、私の返信はチェックしていなかったようである。ともかく最初の段階から今回の旅は波乱の兆候を暗示していたらしい。
ホテルのチェックインを済ませると、少し休憩して3時から成田山に行くことにした。夏は祭りの最中だったのでなかなか前に進めなかったが、今回は人通りも少なく、落ち着いた風情が感じられた。この時にドクターはデジカメを持っていなかったので、帰国するときにまた立ち寄ろうと何気なくいうと、羽田から帰国するからそれは無理だという。
「羽田?」
私はてっきり成田から帰国するものと考えてホテルの予約も済ませていた。羽田となると、これからホテルを探さなければならない。旅はまだ始まったばかりだった。
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