マーギュリスが提唱した連続細胞内共生説、そしてそれに基づく共生進化論は現代では細部を除いてほぼ容認されている。しかしその進化のプロセスは必ずしも直線的に生じたものではないようである。
原核細胞は様々なバクテリアと共生関係を構築することによって真核細胞へと変化を遂げ、単細胞生物から多細胞生物へと進化していった。それはメカニズム的にいえば計算機からコンピューターへの進化ともいえるが、それと同時に機能的な安定性は失われ、故障のリスクも大きくなったといえる。それでもそのような道を選択せざるをえなかったのには理由がある。それは地球の全球凍結である。
地球の歴史上、様々な氷河期の時代はあったが、地球全体が凍結していた時期が過去に2回あったという。一つは約23億年前であり、もう一つは約7億年前のことである。
この全球凍結によって地球全体はいわゆる極限環境になり、その厳しい環境に適応していた生物もいれば絶滅した種属もいる。さらに全球凍結以降はシアノバクテリアの光合成によって酸素濃度が増加し、嫌気性バクテリアは独自の生存形態を選択することになった。それがいわゆる古細菌のメタン菌やテルモプラズマ属である。
その一方、αプロテオバクテリアやシアノバクテリアは原核細胞と共生することによって生存の道を切り開いた。これによって多細胞生物の適応放散が生じ、結果的にはカンブリア爆発と呼ばれる生物種属の多様化が実現されたのである。
このような進化の歴史をフリタージュの文脈から読み解いてみよう。太古の地球には原核細胞をもつ単細胞生物だけが繁殖しており、元素転換能力を含む必要最小限の生存機能をそれぞれの種属がもっていた。しかし全球凍結という最も過酷な状況に直面したバクテリアは固有の元素転換能力では対応できなくなり、その効率を高めるために細胞レベルの共生関係を構築したのである。(これはヴィソツキー博士のMCTの研究にも示されている。)
その結果、多機能性をもつ真核細胞が進化の主役になり、真核生物はその元素転換能力とともに独自の進化を遂げていった。メタン菌の高い元素転換の効率はその実例といえるだろう。
マーギュリスはガイア仮説の支持者だった。しかしガイアは生命を慈しむ愛情あふれる女神ではなく、むしろ進化を促すために厳しい試練を与えた氷の女神だったのかもしれない。
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