« 会議終了 | トップページ | 深夜の散歩 »

2014/01/16

負け戦

ようやくホテルにたどり着くと、地下街に降りて夕食をとることにした。昨日の寿司店はかなり高かったので、今回は創作料理屋に入った。まずはビールで乾杯し、タコと胡瓜のあえ物や天ぷらなどを注文する。

ここではドクターの研究関係者についていろいろと話をした。数年前にインドで開催されたICCFではIGCARのラニ・ジョージ博士がドクターの実験手順を参考にした元素転換の研究を公表している。

ドクターはその後何度かインドを訪れたそうだが、IGCARはかなりセキュリティーの厳しい研究所で、デジカメ等を預けないと入ることができないらしい。ドクターは何度か研究のアドバイスをしたそうだが、ジョージ博士とは音信が途絶えた状態になっているとのことである。

私はキエフ大学にドクターの研究を受け継ぐような人間はいないのかと尋ねたが、自分の研究は様々な分野の専門家の協力が不可欠なので、誰か一人がそれを成しうるわけではないという答えだった。また、私たち自身の研究を進めるための独自の学会が必要だとも伝えたところ、ドクターは伏し目がちにうなづいていた。しかしこの分野の研究状況と制約条件を考えると、いまの時点での実現は難しいように思われた。

私はふと弟との会話を思い出していた。酒を飲みながら話しているときに「うちの家系は負け戦ばかりしてきた」と弟は言った。離れて暮らしていても感じていることは同じだなと思い、「どうせ負け戦なら思いきりかぶくだけだ」と私は答えた。

今回の会議がどうこうではないが、大きな流れからみると私のやってきたことは負け戦だったのかもしれない。しかし、もはやそれでいいと考えている。思えばいつの時代にもそういう役割を担ってきた人間はいたものである。賢しらに勝ち組になろうとする人間が大勢を占めるなか、あえて勝ち目のない勝負に挑む者がいてもいいのではないだろうか。私は自分のしかるべき定めを覚悟しているつもりだ。

ビールばかりでは趣がないと思い、メニューから黒糖梅酒を頼んでみた。ドクターはその味に目を細めて喜んでいた。私たちは静かに杯を重ねて不思議な余韻に浸っていた。

|

« 会議終了 | トップページ | 深夜の散歩 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 負け戦:

« 会議終了 | トップページ | 深夜の散歩 »