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2013/07/30

ボリスの照準

B・シューベルの研究については、『フリタージュの真実』P.54にその著作『火成岩の形成における進化法則』の記述を引用している。その概要は、先カンブリア紀以降に形成された火成岩の組成成分は特にマグネシウムの減少とアルミニウムの増加を特徴としており、その変動には何らかの元素転換反応が関与していることを示唆するものであった。

ボリス・シューベルはケルヴランの共同研究者のジョルジュ・シューベルの兄であり、二人はともに当時のフランスを代表する地質学者だった。しかしG・シューベルがモロッコ地質調査局を拠点として活動していたのに対し、兄のボリスは南米ギアナ高地やガボンの地質調査を専門としていた。そのためシューベル兄弟はともに地質学者であったにもかかわらず、共同研究を行なったことはないらしい。

その中でボリスが唯一ジョルジュの研究、すなわち原子核パリンジェネシス仮説を引用したのがこの著作であり、そこで彼は火成岩の形成プロセスをいくつかのパターンに分類して考察している。

具体的な一例としては、(1)橄欖岩、(2)火成輝岩、(3)斑レイ岩、(4)閃緑岩、(5)花崗閃緑岩、(6)花崗岩という年代的な生成パターンが存在し、それぞれの組成成分の変動にはいくつかの法則性が存在するという。たとえばマグネシウム+アルミニウムはほぼ一定の比率になり、アルカリ元素の比率はアルミニウム-2×カルシウムに等しいという特徴があるらしい。

このボリスの立論にはたしかに原子核パリンジェネシス仮説が反映されているが、注意しておかなければならない点がいくつかある。ジョルジュはモロッコ周辺地域の花崗岩体の産状に基づく花崗岩化作用のメカニズムとしてこの仮説を提唱しているが、ボリスはそれを火成岩の生成プロセス、すなわちマグマの結晶分化作用に代わるものとして普遍化しているのである。そしてそれは変成作用や交代作用を地殻の高温・高圧条件によるフリタージュ反応と説明する原子核パリンジェネシスを、火成岩の生成プロセスによる地球化学的な変動まで包括的に捉えようとすることに他ならない。

地質学におけるフリタージュ反応は実質的に検出しにくい研究対象ではあるが、この両者の視点から地質現象全般を改めて問い直す姿勢が必要だと思われる。

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2013/07/09

フリタージュと陶磁器

Frittage という言葉をフランス語の辞書で調べると「ガラスの溶融・陶器の焼結」などと記している。決して元素転換説でいうところの「核子クラスターの結合」などという表現は出てこない。

英語と発音は異なるが、フランス語には核融合・核分裂を示す言葉として、fusion, fission があるが、ケルヴランはなぜか初期の論文から frittage, clivage を使用している。このことはずっと不思議に思っていたが、最近になってその理由が明らかになってきた。

そのヒントは陶芸に関する一つの記事だった。陶磁器の焼き方にはいくつかの方法があるという。その一つは「酸化焼成」で炉内に十分な酸素を含んだ状態で陶器を焼きあげるそうである。またその反対に「還元焼成」というものもあり、表面に炭素を定着させる「炭化焼成」という技法も存在する。

ケルヴランは当初、核反応と化学反応の中間的なエネルギー・レベルで元素転換反応が生じるものと考えていた。そして酸化・還元・炭化という焼成方法は酸素・水素・炭素という核子クラスターの結合に比定しうるものと考えたのではないだろうか。

奇しくもケルヴランの出身地であるブルターニュ地方のカンペールでは「カンペール焼き」という陶磁器が作られているという。ケルト文明などの郷土史にも精通していたケルヴランがそこからヒントを得た可能性は十分にあるだろう。

現代の私たちは元素転換反応を特殊な核融合の一種と考えようとしがちだが、ケルヴランはそれをより多様なプロセスをもつ作用と捉えていたようである。

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