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2013/04/26

高濃度汚染水とレアメタル

今月、福島第一原発で高濃度汚染水の流出が確認された。海外でもこのニュースは報道されたらしく、ドクターからは流出した汚染水の影響を懸念するメールが届いた。そして将来的にはその処理に元素転換プロセスが応用されることを望んでいると記されていた。

しかし今回流出が確認された汚染水はセシウムが除去されたもので、ストロンチウム等を含む水である。ドクターの研究ではセシウムからバリウムへの転換反応は確認されているが、ストロンチウムについては実験データがない。

その点についてドクターに確認すると、ストロンチウムの転換反応については追加的な実験が必要だが、少なくとも汚染水の減容化は実現可能だという。

そこでストロンチウムのフリタージュ反応について検討してみたが、ドクターの著作には硼素と結合させてモリブデンを生成させる反応式が掲載されている。しかしこれは仮説的なものであり、具体的な実験データがあるわけではない。

最も実現可能と思われるのは、ドクターの論文の一つに提示されているバリウムからサマリウムへの反応を応用することである。ストロンチウムは2価の陽イオンで、元素周期表ではカルシウムとバリウムの間に位置しており、イオン半径も近似している。そこでBa+C=Sm+Eのバリウムをストロンチウムに置き換えると、Sr+C=Ru+Eとなり、ストロンチウムと炭素のフリタージュによってルテニウム102が生成することになる。

この反応についてドクターに確認すると、特殊な条件下では可能かもしれないという回答だった。しかしこの転換反応を生じるには、まず汚染水の成分組成を分析して培養基としての条件を整えなくてはならないだろう。また反応の効率化には、ストロンチウムと炭素に近いイオン半径をもつ成分を除去する等の処理も必要になる。

だが、この反応で生成するルテニウムは宝飾品にも使用されるレアメタルである。深海の岩盤を掘削するよりもはるかに低コストでそれを入手することが可能になるかもしれない。今すぐの実現は難しいかもしれないが、次なるターゲットとしてきわめて有望であるといえるだろう。

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2013/04/12

シンポジウム・オン・ファイトケミストリー

ガセロン・ファイルはP・バランジェの研究状況を記した貴重な資料である。しかしその翻訳にはかなり難渋している。その理由としては、まずJ・M・ガセロンのフランス語が明解なものではない点が上げられる。

英語もそうだが、どんな言語でもそれを使う人間によってかなりニュアンスの異なる表現になる。ちなみにケルヴランのフランス語もかなり難解であり、文法的にも正当なフランス語とは異なっている。これはおそらくケルヴランがブルターニュ地方の出身だからと思われる。ブルターニュ地方はケルト文明の影響を色濃く受けており、ブレトン語という地元の言語が残っている。したがってケルヴランにとってフランス語は異国語ともいえるのである。

バランジェの研究に話を戻すと、ガセロン・ファイルの記述から最近になってバランジェの新たな論文を発見することができた。それは1961年9月に香港大学で開催された植物化学シンポジウムで公表されたものである。このシンポジウムは香港大学創立50周年の記念行事の一つとして開催されたもので、そこにバランジェは3ページほどの論文を提示している。

その内容は『S&V』の記事と同様にソラマメの発芽実験について記したものだが、各元素の変動が%で表示されており、今後ガセロン・ファイルのデータと照合する必要があるだろう。

ちなみに<異端審問>ではG・バルビエがバランジェの講演を聴いたという記述があり、年代的にはこのシンポジウムに近いと思われるが、この講演集の中にバルビエの名前はないので、おそらく別の会合ではないかと推測される。

ガセロン・ファイルにはバランジェの「メモワール・ターミナル」、すなわち最終論文が収録されている。その翻訳が完成した暁にはケルヴランとの時代考証を踏まえて、その研究活動を再構成してみたいと考えている。

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