月の裏側
満月の夜、私は深い山の中にいた。久しぶりに取り出したスワロフスキーAT80にデジタルカメラ・モジュールを接合して月の撮影をしていた。
ドクターが参加するPSAM-2013という学会は4月15日から東京都庁の近くで開催される。そこでフリタージュ会議は前日の4月14日に設定していた。ドクターからの連絡ではすでに学会に提出している論文は査読中であり、2月22日までにその結果が通知されるとのことだった。
その論文のタイトルは「微生物細胞による長寿命の放射性廃棄物の浄化処理とチェルノブイリ・福島地域における自然壊変の問題」というものだが、私はこのタイトルから若干の危惧を感じていた。
おそらくドクターはこれまでの元素転換の研究を踏まえた上で、福島地域の除染と放射性廃棄物の処理について提言しようとしているのだろう。しかし予備知識のない学会の主催者がその論文を査読した結果、どのような判断を下すのかが懸念されたのである。
そこで私はPSAMの事務局にメールを送り、ドクターの論文査読の資料として必要ならいくつかの翻訳論文を送る用意があると伝えた。だがPSAMからは全く回答はなかった。ドクターは査読結果を照会するメールを私にも転送してくれたが、オフィシャル・デッドラインを過ぎてもPSAMからの通知は届いていなかった。
青い月の画像がモニターに流れていくのを見ながら、私は厳しい見通しを予感していた。撮影を終えて車に戻ると携帯にドクターからの着信があった。それによるとPSAMは査読の結果、論文の公表を棄却する決定を下したということだった。
これによってドクターを迎えてのフリタージュ会議の開催は困難な状況になった。残念なことではあるが、少し趣旨を変更して会合を開くというのはいかがだろうか?
現在、微生物資材を利用して除染活動や実験を行なっている個人や団体はいくつか存在しているが、相互に連絡もなくそれぞれが孤立した形で活動を進めている。そこで微生物を活用したバイオ・レメディエーションの可能性について各自が活動を報告し、ディスカッションを行なうということは有意義ではないだろうか。
もちろんデリケートな研究領域なので、外部から干渉を受けたくないという人もいるだろう。だが被災者のため、福島の復興のため、日本の未来のためにという高い志をもって活動している人々が、似たようなことを行なっている他者に対してはきわめて批判的であり、相互に疑心暗鬼というのは器量が知れるというものである。この点については皆さんのご意見をうかがった上で、会合のあり方を検討したいと考えている。
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