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2012/11/12

不可視のヴァーチュオーソ

バランジェと同様にケルヴランの元素転換説に賛同した科学者の一人として、地質学者のG・シューベルが上げられる。しかしバランジェと同じく、シューベルの研究についても知られざる点が数多く存在する。

元素転換説を支持したというと異端な考え方をもつ研究者と思われるかもしれないが、G・シューベルは当時のフランスを代表する国際的知名度のある科学者である。ユネスコの特命を受けてブラジルの資源調査に赴き、カナダでは隕石クレーターの調査を行ない、モスクワで開催された地球化学国際会議では地下核爆発実験による鉱物成分の変動についてロシア語で講演を行なっている。

ちなみにユネスコのサイトのライブラリー(http://www.unesco.org/library)でChoubertを検索すると24本の資料が閲覧できる。当時彼が監修したアフリカの地質図は現在もユネスコから発行されているのである。

G・シューベルは1952年に『花崗岩化作用と原子核物理学』という論文を公表し、その中で原子核パリンジェネシス仮説を提唱している。これは造山運動や褶曲作用における造構的圧力によって広域的な核反応が生じ、結晶片岩などが花崗岩質に変化したというものである。

この論文の中でシューベルは当時の原子核物理学の知見に基づいて、原子レベルにおける鉱物の変成作用の可能性を検討している。このような問題提起によって、後にケルヴランは『地質学における微量エネルギー元素転換』にみられるパイロープの高圧プレス実験を行ない、またネイマンやコロルコフといったロシアの科学者たちにも大きな影響を与えたのである。

花崗岩の成因については、ある種の変成作用によって花崗岩化作用が生じるという変成論者とマグマの結晶分化作用によって生じるとする火成論者が長年にわたって論争を続けており、地質学において未解明の問題になっている。

火成論の難点は結晶分化作用によって生成される花崗岩質マグマが少量であり、大陸地殻を構成する莫大な花崗岩の存在を説明できない点にある。また造山帯のバソリスがどのように形成されたのかも説明が困難である。

一方、変成論は花崗岩と変成岩の漸移的な地質構造の存在が一つの根拠とされているが、固相状態におけるイオンの広域的な拡散は非現実的であり、また花崗岩の成分となるアルカリ元素の起源も説明できない。

このような状況の中でG・シューベルは、原子レベルの変成作用によって花崗岩が生み出される可能性を提唱したのだが、当時の地質学界からは黙殺されたままだった。その後ケルヴランとの出会いをへて共同実験を行なうことになるのだが、彼の原子核パリンジェネシス仮説はいまだに正しく評価されているとはいえない。包括的な地質観に基づくその再検討が期待されるところである。

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