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2012/09/26

マイクロバイオーム

Sep26_30 『日経サイエンス』10月号には「マイクロバイオーム」と題する特集記事が掲載されている。マイクロバイオームとはあまり聞きなれない名称だが、人体に共存する常在菌組織をさし、特にヒトゲノムに対する対置的用語として使用されているようである。

よく耳にする腸内細菌や腸内フローラもその一部であり、これらは嫌気性微生物のため単離培養して研究することは難しい。しかし遺伝子配列を解読する高速シーケンサーを活用して、現在「ヒューマン・マイクロバイオーム計画」が進められているという。これにより様々な興味深い知見が明らかにされている。

その一つとしては、ヒトゲノムに含まれる遺伝子が最大25000個程度なのに対して、マイクロバイオームのDNAは実に330万個に相当するということである。私たちの体をパソコンにたとえると基本ソフトやプログラムがヒトゲノムといえるが、外部からダウンロードされたアプリケーションとしてのマイクロバイオームはその約150倍も存在するということである。そしてそのおかげで私たちはビタミンを合成したり、本来は消化できなかった食物を分解する酵素を作り出せるように「共生進化」を遂げているというのである。

このような研究の進展は腸内細菌のバランスや免疫機能の解明にもつながってゆくだろうが、フリタージュの観点からみても興味深い。生体組織の中で元素転換が生じるなら、そのプロセスを担当する遺伝子が存在するはずだが、それはその生物本来のDNAではなく、共生するマイクロバイオームがアプリケーションになっているのかもしれない。

これからの人類の健康と「共生進化」においては、このマイクロバイオームのネットワークが一つの鍵をにぎっているのかもしれない。

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2012/09/16

オメガ計画とフリタージュ

使用済み核燃料を地層埋設処分することは危険であり、安全な場所に保管して新たな処理方法を将来的に検討すべきだという提言がなされた。しごくもっともな意見だが、提言としては遅すぎる。

使用済み核燃料をリサイクルも埋設処分もしないのであれば、残された方法論は限られてくる。外国に引き取ってもらうことも難しいと思われるので、尖閣諸島のような本土から離れた国有地に保管する方法も一つだろう。台風や海水の影響なども懸念されるが、あえて厳しい環境で保管することによってキャニスターの耐用性を検証することもできるだろう。

もう一つの方法としては無人ロケットに核燃料を搭載して打ち上げることである。この場合、成層圏内で事故が生じると地球環境に致命的なダメージを与える危険性がある。少なくとも人間が居住していない海洋上空の軌道をとるべきだが、国際的な非難を浴びることは想像に難くない。

三つめの方法としては、使用済み核燃料から有用元素を取り出すという「オメガ計画」が上げられる。これは溶媒抽出法などの核化学的処理によって放射性元素を群分離して、その一部を有効利用しようとするものだが、これまでは核燃料をリサイクルする方針だったため、あまり研究も進められていないようである。また採算性を考えると実現する見通しは定かではない。

しかし使用済み核燃料を「埋立ゴミ」ではなく、「資源ゴミ」として分別しようとする研究は進めていく価値があるだろう。オメガ計画によって群分離された放射性廃棄物を、さらにMCTなどの共生培養菌によって元素転換させることで効率的な処理方法を確立することが可能になれば、世界的な問題の解決にもつながるかもしれない。

そのためにはオメガ計画とフリタージュを適合化させる基礎研究を進展させなくてはならないだろう。それには当然時間がかかるだろうが、他の選択肢よりはるかに有望かつ平和的であることは間違いない。

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2012/09/06

10万年の悪夢

福島の原発事故を受けて、世論は原発依存率0%を目指すという選択肢を支持している。しかしその実現の見通しはかなり厳しいものがある。そのためのルートマップももっていないのに国民に三択クイズを出した現政権の愚かしさを思うばかりである。

今年の夏も節電で乗り切れたことから、将来的に原発をゼロにすることは不可能ではないだろう。だがそうなると核燃料をリサイクルするというこれまでの政策方針は完全に無効となり、「もんじゅ」も六ヶ所村も必要がなくなる。使用済み核燃料がリサイクルされないのであればどこかに埋設処分しなくてはならないが、NUMOは400憶円以上の経費をかけて最終処分地の候補はゼロというありさまである。

北欧のフィンランドでは「オンカロ」という最終処分場を建造して、そこに使用済み核燃料を埋設処分する計画だという。フィンランドの偉大な地質学者J・J・ゼーダーホルムはフェノスカンジアの基盤岩の研究で知られているが、フェノスカンジアとは先カンブリア時代の岩石からなる安定地塊であり、バルト楯状地にほぼ一致している。四つのプレートがせめぎあい地震や火山の多い日本とは地質環境が全く異なっている。

それでは使用済み核燃料をフィンランドに引き取ってもらえれば安心かというとそうでもない。地球温暖化のために北欧地域の氷河が溶けていくにつれて、アイソスタシーの原理でバルト楯状地は年間1cmずつ隆起し続けている。またスカンジナビア半島にはカレドニア造山帯があり、10万年後にこの周辺地域がどのような変動を受けているのかは未知の領域である。

さらにいえば10万年たっても使用済み核燃料の放射能はほとんど変化しないのである。ちなみにウラン235の半減期は7憶380万年、ウラン238の半減期は44憶6800万年、トリウム232に至っては140憶5000万年である。

資源の枯渇した10万年後の地球に生まれ変わったとき、私たちの魂は思い知ることになるだろう。軽々しく目先の損得で選んだことの罪深さを。

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