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2012/05/18

フリタージュ反応の触媒作用

昨年末の『日経エコロジー』という雑誌に以下のような記事が掲載されている。これは金沢大学の田崎和江教授が南相馬市で行なった除染実験を伝えるものである。

http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20111209/110252/?P=1

この実験については、実はすでに半年前から情報としては知っていたが、その詳細についてはいずれ論文として公表されるというアナウンスだったので、その内容を確認して考察する予定だった。

しかしそのような論文はこれまでのところ公表されておらず、また田崎教授はすでに大学を退官されているということなので、今後正式な論文として公表される見通しは少ない。したがって上記の記事が判断材料の全てということになる。

田崎教授は区画化された水田に珪藻土やゼオライト、貝化石等を投入し、その中で糸状菌を繁殖させたところ、一か月後には放射線量が半減し、447mg/kgのバリウムを土壌から検出したという。その記事には次のような記述がある。

『実験結果からは、微生物の代謝が放射性セシウムからバリウムへの転換を早めたとも推論できる。こうした見方を「生体内核変換」と呼び、少数ながら報告例がある。だが、現在の物理学ではあり得ないため、議論の対象にさえなっていない。』

まず最初に確認しておくべきことは、この実験は除染効果の可能性を確認するためのものであり、フリタージュ反応の検出を目的として行なわれたものではないということである。

また放射線量が半減したと報告されているが、放射性物質を含む環境下で微生物が培養される場合、その時間的変化がガイガーカウンターで測定される実効線量にどのような影響を与えるかが評価されなくてはならない。これについては『生体系における同位体の元素転換と核融合』のP.13が参考になるだろう。

バリウムが検出されたということからセシウムからバリウムへの元素転換が生じた可能性は否定できない。ただし、それを検証するのであればキエフ・グループのように同位体レベルの定量分析といわゆるノン・ゼロ・バランスの成立を確認する必要があるだろう。

020 実験データから田崎教授は「メカニズムは不明だが、珪藻土に線量を下げる効果があることはわかった。今後の除染に応用できる。」と述べているが、おそらくこれは完全に間違っている。

データを見ると、たしかに珪藻土を投入したエリアの線量は下がっているが、珪藻土自体に放射線を遮蔽する性質はないだろう。また貝化石を投入したエリアも同じレベルに線量が低下しているが、これは『生体系における同位体の元素転換と核融合』P.104のデータと一致している。

珪藻土の珪酸も貝化石のカルシウムも、セシウムからバリウムへの転換反応に直接関与しているわけではない。これらの成分はおそらく微量元素のバランスに対して一定の役割を果たしていて、結果的にフリタージュ反応を効率化する触媒として機能しているのではないだろうか。

EM菌のケースも同様だが、今後はこのような触媒作用を解明していくことがバイオ・レメディエーションとしての技術確立のための鍵となるだろう。

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2012/05/10

もう一つの系譜

ケルヴランに関心をもつ人は主に生物における元素転換反応に注目していることが多いが、もう一つのテーマとして地質学における微量エネルギー元素転換というものがある。これについては特に1973年の著作に詳述されており、その翻訳書はフリタージュ・ブックスとしても紹介しているが、同様の研究はケルヴラン以前にもいくつかの先例がある。

地質学において元素が転換するという発想の根底には元素の概念と原子構造の確立が不可欠である。したがってやはり検証可能な研究としては1930年代以降ということになるだろう。その意味では1940年4月にM・ネツリンが公表した論文、「火山活動と核化学」が嚆矢となるのではないだろうか。

これはフランス物理学会の機関紙『ジャーナル・デ・フィジク・エ・ラジウム』に掲載されたものだが、火山活動は連鎖的核反応によって生じているのではないかという仮説の下にエネルギー・スケールが計算されている。その詳細については不明だが、ネツリンは地下深部に存在する「マグマ・シート」の中で高速中性子が発生するメカニズムを考えていたようである。

現代の地質学からみると少し荒唐無稽に思われるが、コールド・フュージョンのいくつかの研究例でも中性子や過剰熱の発生が報告されていることを考えると再検討の余地はあるかもしれない。

このネツリンの研究に啓発を受けたかどうかはわからないが、フランスの地質学者G・シューベルは1952年に「花崗岩化作用と原子物理学」という論考を公表しており、結晶片岩の広域的変成作用や造山運動において元素転換反応が生じていると考え、「原子核パリンジェネシス仮説」を提唱している。これが後にケルヴランとの共同研究につながっていくことは周知の事実である。

思えば日本でも、かつては石本巳四雄の「岩漿爆発説」や藤原咲平の「地渦説」といった日本固有の豊かな風土に根ざした自然観と地質論が存在していた。だが、プレート・テクトニクスの台頭によってそうした自然観は失われ、単なる機械論的現象論に還元されてしまっている。このフリタージュのもう一つの支流によって、私たちはいま一度包括的な自然観を取り戻す必要があるのではないだろうか。

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