失われた鉱脈
ケルヴランが世界的な知名度を得たのは主にその生物学的元素転換に関する所説によってであるが、ケルヴラン自身はむしろ生物学のみならず地質学の分野をも包括する概念としての微量エネルギー元素転換に重きを置いていた。その証拠として9冊の著作のうち2冊は完全に地質学に関するものであり、その他の著作にも少なからず地質学における元素転換の研究例が収録されている。
しかし生物学的元素転換については現代でもヴィソツキー博士らの研究が継続されているが、地質現象としての元素転換反応に関しては、たまに話題にされることはあっても正当な形で取り上げられることはまずほとんどない。
かつてはJ・ネツリンやN・エフレモフという研究者たちが地球化学の観点からその可能性を示唆し、ケルヴランと同時代には<原子核パリンジェネシス仮説>を提唱したG・シューベルがコロルコフやネイマン、シマコフといったロシアの科学者たちに微量エネルギー元素転換の概念を紹介した。だが近年ではフランスのJ・グラパが花崗岩による実験をベルギーで行なったという情報を最後に、この研究の流脈は途絶えたものと思われた。
ところが、この失われた鉱脈は再び探査されはじめているらしい。最近になって知ったことだが、今年のICCF-16で「地殻内部における常温核融合」という講演が行なわれたそうである。それはカザフスタンのカスピ大学の地質学者、G・V・タラセンコ博士によるものである。そのアブストラクトによると、タラセンコ博士は従来の石油生成論に疑問を呈しており、本質的には地殻内部におけるコールド・フュージョンがその生成メカニズムになっているのではないかという。
そこで私はタラセンコ博士の研究について少し調べてみたが、意外と簡単に博士の研究サイトを見つけることができた。ただ全てロシア語なので概略をつかむことは難しい。そこでサイトを通じて英文の論文があれば送ってほしいと依頼しておいたところ、ICCF-16の講演で使用されたパワーポイントのファイルがタラセンコ博士本人から送られてきた。
ファイルの内容については今後少しずつ翻訳と調査を続けていく必要があるが、地磁気をもたらす地殻-マントルのダイナモ効果がコールド・フュージョンの原動力と考えられているようである。
かつてケルヴランやG・シューベルが目ざした「もう一つの地質学」が、この新たなアプローチから再構築される可能性も期待できるのではないだろうか。
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