立体化学とフリタージュ
福島の原発事故で放出されたセシウムやストロンチウムは、その放射能によって長期的に土壌や生体組織にダメージを与える影響が懸念されている。
立体化学というとあまり一般になじみはないが、原子やイオンの大きさ、あるいはその分子が形成する構造によって化学反応が条件づけられる現象を研究テーマとする分野であり、DNAや酵素の立体構造もその研究対象に含まれる。
その観点でとらえるとセシウムはカリウムの立体化学的類似物であり、ストロンチウムはカルシウムの類似物として骨の中に沈着し、内部被曝を引き起こすものと考えられる。
だが、これらの放射性元素は生物に対してさらに別の側面をもっている可能性がある。キエフ・グループが行なった実験によると、セシウムを加えた培養基を使用したときにはフリタージュ反応の転換効率が向上し、逆にストロンチウムを加えた培養基では元素転換の効率が下がったことが観察されている。
これらの放射性元素はフリタージュ反応に直接関与しておらず、その作用メカニズムは不明だが、おそらく微生物の生化学的条件に間接的な影響が与えられたためであるとヴィソツキー博士は述べている。
こうした影響をホルミシス効果と呼べるかどうかはわからないが、原発事故で汚染された土壌や生態系にも同様の反応は生じているのかもしれない。
立体化学的類似物というと、ともすればイオン化傾向や化学的置換というレベルでとらえがちだが、たとえば酵素を活性化させる金属イオンもその価数よりイオン半径の大きさが重要になるケースも多い。放射性元素に限らず、私たちは各元素の多面性を生体組織との関係の中で捉え直さなくてはならないようである。
こうした意味でヒマワリやナタネを植えてセシウムを吸収する方法にはあまり賛成できない。最終的にセシウムを吸収させたヒマワリをどうするのか、またその種子を家畜が食べたらどう対処するのか、問題は解決されないままだからである。
このようなバイオ・レメディエーションを行なう場合は、できるだけ進化論的に離れた存在、すなわち微生物を使用するほうが生態系への影響も最小限に抑えられるのではないだろうか。そしてそのためにこそMCTやRMMといった技術は活用されるべきなのである。
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