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2011/07/19

立体化学とフリタージュ

福島の原発事故で放出されたセシウムやストロンチウムは、その放射能によって長期的に土壌や生体組織にダメージを与える影響が懸念されている。

立体化学というとあまり一般になじみはないが、原子やイオンの大きさ、あるいはその分子が形成する構造によって化学反応が条件づけられる現象を研究テーマとする分野であり、DNAや酵素の立体構造もその研究対象に含まれる。

その観点でとらえるとセシウムはカリウムの立体化学的類似物であり、ストロンチウムはカルシウムの類似物として骨の中に沈着し、内部被曝を引き起こすものと考えられる。

だが、これらの放射性元素は生物に対してさらに別の側面をもっている可能性がある。キエフ・グループが行なった実験によると、セシウムを加えた培養基を使用したときにはフリタージュ反応の転換効率が向上し、逆にストロンチウムを加えた培養基では元素転換の効率が下がったことが観察されている。

これらの放射性元素はフリタージュ反応に直接関与しておらず、その作用メカニズムは不明だが、おそらく微生物の生化学的条件に間接的な影響が与えられたためであるとヴィソツキー博士は述べている。

こうした影響をホルミシス効果と呼べるかどうかはわからないが、原発事故で汚染された土壌や生態系にも同様の反応は生じているのかもしれない。

立体化学的類似物というと、ともすればイオン化傾向や化学的置換というレベルでとらえがちだが、たとえば酵素を活性化させる金属イオンもその価数よりイオン半径の大きさが重要になるケースも多い。放射性元素に限らず、私たちは各元素の多面性を生体組織との関係の中で捉え直さなくてはならないようである。

こうした意味でヒマワリやナタネを植えてセシウムを吸収する方法にはあまり賛成できない。最終的にセシウムを吸収させたヒマワリをどうするのか、またその種子を家畜が食べたらどう対処するのか、問題は解決されないままだからである。

このようなバイオ・レメディエーションを行なう場合は、できるだけ進化論的に離れた存在、すなわち微生物を使用するほうが生態系への影響も最小限に抑えられるのではないだろうか。そしてそのためにこそMCTやRMMといった技術は活用されるべきなのである。

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2011/07/08

MRETに関する朔明社の方針

2009年9月、当社はフリタージュ・ブックスの一つとして『MRETウォーター~細胞を活性化するクラスレート・テクノロジー』を出版した。この著作はV・I・ヴィソツキー博士とイゴール・スミルノフ博士から論文の提供と翻訳の許可を受けて制作したものである。わずか50ページほどの可愛い小冊子ではあるが、MRETウォーターに関する彼らの著作と9本の論文を翻訳し、およそ5年の歳月をかけて完成させたものである。

この著作の出版の目的は、彼らの研究に対する正しい理解を深め、その適正な普及を促進することにある。しかしながら最近になってMRETに関する商業的な動きが出てきており、その中には少し懸念される動向もあることから、ここに改めてMRETに関する当社の方針を明記しておきたい。『MRETウォーター』を購入された方やMRET関連のビジネスを行なっている方は目を通しておいて頂きたい。

(1)まず最初に『MRETウォーター』の著作権についてであるが、これは論文の原著者であるヴィソツキー博士ならびにスミルノフ博士だけではなく、その翻訳と制作を行なった朔明社に帰属するものである。したがって本書の内容を、当該の著作権保有者である当社の許可を得ることなく無断で複製配布したり、不特定多数が閲覧するサイト上に引用することは、その著作権を不当に侵害する行為に他ならない。

(2)次に、最近の傾向としては福島原発事故を受けてMRETウォーターと放射能の関連性に言及されるケースが見られる。このブログでも「放射能汚染とMRETウォーター」という記事を載せたことがあるが、それはこれまでの研究成果に基づいた間接的効果について示唆したものであり、放射能に対する直接的作用を確言したものではない。また『MRETウォーター』にも放射能に関する記述はされていない。

つまり『MRETウォーター』の内容をAとすると、そこには含まれていないB,C,Dといった情報が付加されているケースが存在するのである。おそらく商品の販売促進のためにこのようなことが行なわれているのだろうが、その情報を知った人はA,B,Cのどれが正しくてどれが間違っているのかを区別することができない。そのため当社におかしな問い合わせが届くケースも増えている。

朔明社はMRET関連のビジネスを行なういかなる会社・事業者とも関係していない。したがって、たとえこのようなオーバートークによる販売上のトラブルや損害が生じたとしても、当社には一切責任がないことを銘記しておく。

MRETウォーターに関する資料の集約は現在も継続中だが、このような状況が続くようであれば、このブログの記事という形での公表も差し控えなければならないだろう。業者によって情報が濫用されることは当社の目的とは相反するものだからである。

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2011/07/02

放射線とホルミシス

高レベルの放射能が有害な影響を及ぼすことについては誰しも異論はないだろう。しかし低レベルの放射線の影響については研究者の間でも意見が分かれている。

これに関しては一般に三つのモデルが想定されている。一つは線量とその影響が単純に比例するというLNT仮説である。この仮説に従うと微量の放射線でも有害な影響が生じるので、できるかぎり被爆を避けたほうが良いことになる。

もう一つは閾値仮説と呼ばれるもので、一定の線量を超えないかぎり有害な影響は表われないという考え方である。低レベルの被曝に対して一定の許容量が存在するというこの考え方であれば、適切な線量管理をすれば問題ないともいえるだろう。

三つ目はホルミシス仮説というモデルだが、これは低レベルの放射線はむしろ生体に対して有益な作用をもたらすという立場をとるものである。この「多ければ有害だが、少なければ有益」という見解はアルコールやカフェインなどの化学物質やホメオパシーの原理とも共通するものと考えられている。

実はヴィソツキー博士はこのホルミシス仮説を支持している。不思議に思われるがチェルノブイリ周辺の土地では木々や植物が繁茂し、特有の生態系が形成されている。また広島に来日したときにも、戦後の自然環境の復元にはホルミシス効果が作用したのではないかと述べていた。

一例として、紫外線も大量に浴びると皮膚ガンの原因になるが、ビタミンDの生成にも必要であることが知られている。だが、ホルミシスという言葉だけで全てをひとくくりに論じるべきではないだろう。

たとえば予防接種で免疫作用が働いて抗体が形成されるのもホルミシス効果ととらえることもできるだろう。しかし免疫力の弱い乳幼児や老人に同じ処置をすることは適切だろうか。その意味で、年間被曝量に基づく単純計算で線量管理を行なうことは少し安直に過ぎるといえるだろう。

理論的なモデルや数値はあくまで参考データでしかない。それらにとらわれず個々の条件に即した現実的な対応が必要だと考えられる。それとともにホルミシス効果の作用メカニズムの解明が今後の大きな課題といえるだろう。

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