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2008/11/28

語られざる汚名

最近の調査で判明したことだが、フランスにはまだレマール・ブーシェ法を支持する団体がわずかながら存在しているらしい。Fonds groupe Lemaire という団体が去年の年次報告書を掲載しているのを発見した。

「フリタージュの真実」をお読みになった方はおわかりだろうが、1960年代初期にフランス最初の有機農法として興隆したレマール・ブーシェ法は、ケルヴランの元素転換説を理論的な支柱としてカルマゴルの製造・販売を行ない、当時の化学肥料や農薬を使用する慣行農法と鋭く対立した経緯がある。

しかしその後、レマール・ブーシェ法の活動は数奇な運命をたどった。
J・ブーシェとともにフランス生物学的農法協会を設立したR・タヴェラ、A・ルイスはその後離反し、独自の団体ナチュエ・プログレ(N&P)を設立した。この団体はいまでも独自の活動を続けている。

また1972年に創始者の一人であるラオル・レマールが急逝したあと、S.V.B.レマールを受け継いだ息子のJ・P・レマールは農法技術をめぐってブーシェと対立し、独自の路線を歩みだすことになる。
団体の機関誌"Agriculture & Vie"は継続して発行されていたが、農機具の販売広告や牧畜業への参入など、当初のレマール・ブーシェ法の理念とはかけ離れた印象を与えるものとなっていった。

70年代後期以降のその活動についてはほとんど資料や出版物も見当たらないので、次第に衰退していったものと考えられる。レマール・ブーシェ法以外の有機農法がBIOとして台頭する時代とも重なっている。

だが、今回発見された年次報告書で特徴的なのは、過去の活動の歴史を総括する記事の中にケルヴランの名前はおろか、元素転換説に関する記述が一度も出てこないことである。
カルマゴルはどうやら現在も主要な素材として利用されているようだが、もはやそれは「元素転換の活性剤」とは位置づけられていない。現在のレマール・ブーシェ法の団体は、かつてともに闘った錬金術師の存在をその歴史から抹消しようとしているのである。

レマール・ブーシェ法がI.N.R.A.によって攻撃された要因に元素転換説の非科学性があった。しかしケルヴランは彼らの活動を擁護するためにあえてその矢面に立った部分もあるのである。まさかその歴史的総括の中で、その存在すら抹消されようとは思わなかっただろう。彼らにとって錬金術師の名はまさに語られざる汚名なのである。

人間とは自分の都合でそのように他人を利用するような存在なのかもしれない。しかし、そのような人々が耕した農地の未来に果たして大地の豊穣がおとずれるものだろうか?

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2008/11/19

ニューザイムの世界

Nov19207 先日『酵素力革命」という本を購入した。この本の著者は新谷弘美という人だが、最初のうちは心当たりがなかった。アルバート・アインシュタイン医科大学の教授ときいて「ああ、あの人か。」と思い出した。

タイトルだけ見ると新しい洗剤のキャッチコピーのようだが、サブタイトルとして「若返り酵素ニューザイムを活性化させる生き方」と記されている。酵素はエンザイムであり、補酵素はコエンザイムである。ニューザイムというと何か新しい酵素でも発見されたのだろうか。そんな期待をもって手にした著作だった。

タイトルから受ける印象とは異なり、内容は医学的所見にとどまらず多岐にわたっている。医療の実態から食事内容や農業・牧畜の知られざる問題点について深い見識が示されている。
フリタージュを研究テーマとする私には、巷で参考になる書籍というものがほとんど存在しない。寝るときに読むのは必ず自分が制作した本である。そんな私もこの著作の内容にはかなり引き込まれるものがあった。

この新谷教授は長年の腸相診断を通じて食事内容の問題や、農業の問題に関心を寄せるようになったらしい。そして酵素を中心とした食生活のありかたを重視して「新谷式食事健康法(シンヤビオジマ)」というものを提唱している。
それは肉や牛乳といった西欧的な食品ではなく、日本古来の食事に発酵食品や果物を積極的に取り入れようとするものらしい。
医学的見地から語られるその言葉には説得力があるので、この本を読んだ読者はシンヤビオジマを始めてみようかと思わせるものがある。

それはたしかに素晴らしいものだとは思うのだが、若干抵抗感を覚える部分もある。
新谷氏は牛乳は日本人の体質に合わず、カルシウム吸収の効率にも疑問があると述べて、その飲用を全面的に否定している。もちろんその生産体制など様々な問題点はあるらしい。ただ、全ての牛乳が飲用にふさわしくないとは思われない。

お酒が飲めない人がいるように、世間には牛乳を飲むとおなかをこわす人がいるようだ。そのような人は乳糖を分解するラクターゼの分泌が不十分だという。たしかにそういう意味で日本人の体質に合わないという面はあるのかもしれないが、酒をいくら飲んでも平気な人がいるように、それには個人差がある。
またカルシウム源としては問題があるかもしれないが、牛乳にはラクトフェリンという抗菌物質が含まれており、全く百害あって一利なしではないのである。この著者もラクターゼのことを知っているのにラクトフェリンのことを知らないわけではないだろう。

そして「若返り酵素ニューザイム」だが、どうやらこの本によるとそれは不要なタンパク質を分解し、細胞のデトックスをもたらす酵素のことを意味するらしい。いわゆるプロテアーゼの一群であり、超分子26Sプロテアソームなどもその中に含まれると考えているようである。

これらのプロテアーゼは以前より研究されてきたものであり、わざわざニューザイムというカテゴリーを作る必要性は感じられない。もっともプロテアソームなどは分子量が大きいため、まだ正確な反応プロセスは明確にされていないようではあるが。

氏はさらに果物などに含まれる酵素は体内で消化されたあとに、「酵素の原型」としてストックされ、また新しく再利用されるという「ミラクル・エンザイム仮説」というものを述べている。
このような仮説を述べるのは自由だが、これは検証を要する問題である。
一般に加熱処理された果物にふくれる酵素は立体構造が変化してしまうので、元の酵素機能を発揮することはできない。それが体内でアミノ酸やペプチドに分解されて、どのようにリサイクルされるのかは憶測の域を出ない部分があり、著者自身それを検証する実験を行なったわけでもないようである。

「酵素の原型」とはなかなかゲーテ的な発想で面白いのだが、問題はそれを彼自身の食事健康法の正当化に短絡している危険性がかいま見られることである。その当たりをある程度踏まえたうえで、シンヤビオジマを実践してみるのであれば、その体験を通して得られるものがあるのかもしれない。

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2008/11/10

MRETに対する批判

先日のことだが、MRETのアルツハイマーに関する論文の翻訳のためにアルツハイマーについて調べているうちに、ある医学生のブログにたどり着いた。
その学生は神経科の専攻らしく、アルツハイマーについてまとめた記述を掲載していた。
そこで私は、神経疾患に対してMRETウォーターが有効かもしれないと投稿させてもらった。

するとまもなく私のコメントに対し、第三者から「そんなものは水商売の詐欺に過ぎない」というコメントが寄せられた。そのブログの医学生も「もしそのような水によって神経疾患が治癒されるなら大発見だが、そんなことはありえない」と否定した。そして「反論があるならその根拠を示してもらいたい」と述べ、「あなたのコメントは人々の誤解をまねく恐れがあるので削除する可能性がある」という<警告>まで告知してきた。

その段階で私は、このような人間と議論をしても得るところは何もないことを悟り、スミルノフ博士の論文が掲載されているサイトを示した上で、その内容が真偽を判断するには不十分であること、そしてもし治癒の可能性があるのなら調査する価値はあるのではないかと伝えておいた。

案の定、私のコメントは抹消されたようだが、その人のブログにとってふさわしくない内容と判断されたのだから、それは仕方のないことではある。ただ一つ、考えさせられたことがある。

スミルノフ博士の論文はアルツハイマーについて解説されてはいるが、その臨床例として取り上げられているA・シャリタ氏は脳性小児まひがMRETウォーターにより回復したと報告されている。
確かにどちらも神経疾患とはいえるが、先天的な脳性小児まひと後天的なアルツハイマー病を同一視することはできない。アルツハイマーに対する効果が期待できると考えられるのであれば、その患者に対する治験記録を示すべきであろう。
また、脳性小児まひのA・シャリタ氏の臨床例についても、具体的な臨床記録が掲載されているわけでもない。せめて脳の断層写真を比較するなどの資料がほしい。そしてMRETがその変化に対してどのような作用機序を示しているのか、明確な見解が提示されなくてはならない。

A・シャリタ氏についてはYou tubeに動画が投稿されており、2400回も再生されているようだが、内容的にはMRETのプロモーションビデオの様相を呈している。
販売促進も結構だが、よほど厳密な検証に基づいた資料を提示しないと、日本の市場ではそれこそ「水商売詐欺」のそしりは免れない。

このブログの医学生のように、多くの人々は高名な学者の発言や立派な医学書に書いてあれば盲目的にその内容を信用し、それに抵触するものは徹底的に排除しようとするものである。そして、たとえアルツハイマー病の原因が不明であろうと、サリドマイドがなぜ難病に効くのかがわからなくても、平然とその医療行為は行なわれている現実がある。こうした人々には代替療法の有効性など眼中にないのである。

この医学生が医師免許を取得するために勉強されているのは結構なことだが、それが医療行為への視野を狭める「勉強のためのお勉強」であってはならないだろう。パソコンの画面を眺めながら患者と視線を合わせることのない医者にはなってほしくないものである。

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2008/11/05

錬金術の再生

Nov04199 先週末にフランスの科学雑誌 "Science & Vie"が届いた。これは2004年5月のものだが、「錬金術」特集として常温核融合の研究をメインに取り上げている。
内容としては4部構成で、第1部ではコールド・フュージョンの概念と研究の概要、第2部はその立役者であるフライシュマンへのインタビュー、第3部はその理論的沿革について記述されている。

ところがその第4部は「金の卵を産む鶏?」という奇妙なタイトルになっている。ページ数は少ないが、そこにはケルヴランの研究が紹介されていたのである。

"Science & Vie"は『フリタージュの真実』でもお分かりのように、1960年代にバランジェやケルヴランの研究を大きく取り上げたことで知られている。これらの記事は当時の科学ジャーナリストのA・ミシェルが執筆したものである。
A・ミシェルはたしかUFOの出現や飛行ルートに法則性があることを主張した人物としても知られていたが、そういう面では少し異端的な科学ジャーナリストだったのかもしれない。しかし、ケルヴランやバランジェに関する記事はわりとまともな印象を受けるものである。

それからおよそ半世紀をへて、"Science & Vie"に再びケルヴランの名が登場するとは実に意外なものといえるだろう。そしてさらに、マルセイユ大学のJ・P・ビベリアン博士やヴィソツキー博士の研究も合わせて紹介されていた。
それらは研究の概要を紹介したものなので、私に取って特別目新しい発見はなかったが、"S&V"はそれらをことさらコールド・フュージョンと関連づけるのではなく、あくまで中立的な見解を表明している様子である。

ビベリアンやヴィソツキーに関する情報を"S&V"の編集部が得ているということは、もしかすると半世紀前にケルヴランの研究を紹介した頃と同じような状況が引き起こされる可能性もあるかもしれない。そうなると多くのフランス人たちは、かつて時代の眉目を集めた錬金術師が再び予想外の形で現れるのを目にすることになるのかもしれない。

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