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2008/09/19

花崗岩のメタモルフォーゼ

ゲーテは色彩論や植物のメタモルフォーゼを通して科学研究家としても知られているが、地質学についても造詣が深かったことはあまり知られていない。しかしワイマール公国枢密院参事官でもあった彼はイルメナウ鉱山の開発などにも関与しており、地質学に関する独自の見識を深めていったという。

ゲーテは地質学に関する様々な手稿を残しているが、その中で花崗岩についても記している。彼にとって花崗岩は「地球の最も底にある岩石」であり、石英・長石・雲母という鉱物の見事な「三位一体」の現れであるという。そしてそれはメタモルフォーゼによって別の岩石に変化することもあれば、他の岩石が花崗岩を形成することもあると述べている。

ゲーテの言説は古きよき詩的夢想と捉えられてきたが、それを一つの独創的な学説として甦らせた人物がいる。それがケルヴランとも共同研究を行なったG・シューベルである。

G・シューベルについてはこれまでにも取り上げたことがあるが、彼は1952年に「花崗岩と原子核物理学」という論考を公表し、その中で<原子核パリンジェネシス仮説>というものを提示している。

パリンジェネシスという概念を最初に確立したのはフィンランドの地質学者J・J・ゼーダーホルムである。花崗岩質マグマが固結した後、地殻変動などで深部に落ちこみ、再び再溶融して新しいマグマとして流動するという現象を彼はパリンジェネシスと名づけ、花崗岩化作用の大きな動因として位置づけた。
ゼーダーホルムによると、このパリンジェネシスに際して<アイコア>という花崗岩質溶液が形成され、アナテクシスという超変成作用が地下深部で生じるという。これにより花崗岩・片麻岩・結晶片岩が広範に流動化して再生マグマが形成されるというのである。

もっともこのような考え方はゼーダーホルムが最初ではない。A・ラクロワの「鉱化剤」や「派生エマネーション」、P・テルミエの「コロン・フィルトランテ」も<アイコア>とほぼ同義であり、岩石を花崗岩化させるために必要な元素を含んだ高温の水蒸気が地下内部を流動するというものである。

しかしゼーダーホルムの<アイコア>もアナテクシスも、彼のパリンジェネシスという概念を定立させるために都合よく作り出されたものであり、実際に観測されたものでもなければその具体的なメカニズムも解明されていなかった。
そのことを見抜いたG・シューベルは、花崗岩化作用を拡大再生産するためのこうした仮構的概念に依存することをやめ、原子核レベルでの花崗岩化作用の可能性を提唱したのである。

その主張はかつてのゲーテの言葉のように時代に受け流されたわけだが、やがて錬金術師と出会ったG・シューベルは新たな方向性へとその鉱脈を追い求めることになる。そして彼が残した様々な論考は、ゲーテと同じようにいまなお私たちにその命題を突きつけているのである。

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