合理主義と蒙昧主義
「フリタージュの真実」にも記しているが、1960年代にフランス最初の有機農法として登場したレマール・ブーシェ法はケルヴランの元素転換説を一つの重要な理論として採用したものだった。しかし、現在のフランスで生物学的農法(AB:Agriculture Biologique)と呼ばれるものは、それとは全く異なる有機農法である。
INRAの研究者であるジャック・デラは、当時のINRAと生物学的農法の対立について次のようなインタヴューに答えている。
Q:「生物学的農法の指導者たちによって推奨されていた技法を、長年の間INRAは時代遅れかつ非生産的なものと考えていたが、現在それらは名誉を回復しつつある。ここ数年間にそれらに対する視点がどのように変化したのかを指摘してもらいたい。」
A:「INRAの農学部が分割される以前は土壌の肥沃化の研究に全てが集約されており、その頃はたとえほんのわずかの農地とその経営者しか関わりをもっていなかったにせよ、生物学的農法が悪い形で受け止められていたことは確かである。」
「私は彼らが<微量エネルギー元素転換>の有効性を主張していた時代をよく覚えている。これはいくつかの疑わしい実験に基づいてC・L・ケルヴランという人がナトリウムはカリウムに、また珪素は燐に転換しうるなどと主張していたものである。」
「こうした主張は明らかに真剣に受け止められなかったが、特に一つの同位体から別の同位体に転換させるためには莫大なエネルギーを投入しなくてはならないことをよく知っていた原子力エネルギー委員会の研究者たちの反応はそうであった。」
「しかしながら長い間、生物学的農法の支持者とその敵対者はお互いの蒙昧主義と合理主義を際立たせる不毛な論争に時間を費やしていたのである。」
「C・L・ケルヴランの死とともに生物学的元素転換も消え去ることになった。もちろん今日においてもなお生物学的農法を称揚し、奇抜なだけではなく憂慮すべき概念を主張する団体(バイオダイナミック農法)は存在しているが、それはブドウ栽培の分野を除いては非常に二義的な存在にとどまっている。」
「現在、生物学的農法は公的な科学に対抗するためにふさわしい科学的根拠をもつことを断念している。それゆえINRAの研究者たちはその姿勢をあらため、生物学的農法を異なる科学的基準ではなく、別の社会的・エコロジー的論理にしたがう農業の支流として認めるようになったのである。」
現在無肥料栽培に関心を抱く人々の間で元素転換説が取り沙汰されることもある。そこには否定する人もいれば肯定的に考える人もいるようである。だが、いずれにしてもそれは元素転換説を検証する実験を行なわないかぎり、宗教的レベルにとどまるものといえるだろう。
かつてのINRAと生物学的農法の対立のように、それが合理主義と蒙昧主義の闘いの繰り返しにならないことを強く願うばかりである。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント