カハネの批判
前にもお伝えしたが、「生物学的元素転換」が完売したため現在第6刷を制作中である。例によって全体的な校正を進めながら制作を同時進行している。さらに論文集の解説の執筆も行なっており、S・エニンのスビーエ・ガデ論文のオペも行なっている。当然その他の資料の翻訳も進めているので、なかなか時間に追われているのが現状である。
少しゆったり事を進めたいものだが、第6刷はすでに予約も入っているので制作は進めなくてはならない。来月にはこの事態を収拾したいと考えている。
そのような中で翻訳を進めているE・カハネの論考についてだが、長文のわりになかなか核心に触れようとしないので、少し手をこまねいているところではある。だが、カハネの見解は最初から断定的な形で展開されているので、以下に少し紹介してみよう。
「・・しかしながら再び誤った情報が大衆の意識に浸透しつつある。それはあまりにも強固に定着しているので、専門家たちは教育の現場や研究機関においてもその影響に直面せざるをえない。その最たるものは、様々な形で観察されるという生物学的元素転換に関する話題である。」
「この問題についてはこれまで学会の審議に提出された報告もなく(*この時点ではアカデミーへの報告は行われていなかった)、また科学雑誌に公表された論文においてこれらの風説に関するさらなる情報源が示されたこともない。さらに述べておかなくてはならないのは、たとえばケルヴラン氏の著作は個人的に出版されたものであり、出版社の科学委員会による保証をともなうものではないということである。それゆえ著作や文献に対する批判的考証の鋭敏さを身につけていない大衆はそれに欺かれ、彼らが知識としてもっているものの全てと同じ信頼性をもつものと考えてしまったのである。」
「私たちはこのような主張に対して学生や研究者たちの反響、およびG・レ-ストラとJ・ロワゾーによってユニオ・ラショナリステに提示された反論によって警告してきた。さらにこの二人の化学者による論考の公表後、私たちはケルヴラン氏と膨大な書簡のやりとりを行なった。しかしケルヴラン氏はその実験を繰り返すことなく、完全に理論的な論拠に基づいてこの二人の著者と出版社のユニオ・ラショナリステを非難したのである。」
残念ながらこの論争の詳細についてはまだ不明確な部分も多く、今後の調査が必要ではあるが、この論考がまだアカデミーでの論争が開始される以前の1966年に公表されていることは注目に値する。この時期、すでにケルヴランは4冊目の著作を公表している。これが後に英訳される「生物学的元素転換」であり、専門的な難解さをもつ初期の著作から一転して広く大衆に受け入れられた。カハネらの批判はそのような時代の思潮を反映したものとも捉えられる。
この年にはベルギーの栄養学者のE・プリスニエが自著の序文をケルヴランに依頼しており、元素転換説の社会的評価は二分されていたといえるだろう。
カハネの文脈は後の「レゾ・プレザンテ」の論争にもつながるものだが、その全体像を把握するにはもう少し明確な資料がほしいところである。各作業が落ち着いてきたらいずれ調査を進めたいものである。
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