大地に捧げる花束
ケルヴランの研究活動を物語るうえで欠かせないのが生物学的農法の存在である。特にR・レマールとJ・ブーシェによるレマール・ブーシェ法は生物学的元素転換に依拠した農法として重要な役割を果たしていた。
しかし残念ながら、現在フランスでBIO(ビオ)と呼ばれる有機農法はレマール・ブーシェ法とは異なるものである。ビオワインなどにはビオディナミ(シュタイナーのバイオダイナミック農法)とビオロジック(有機農法)の二つの認証制度が確立されているようだが、レマール・ブーシェ法と関連をもつものではない。
このレマール・ブーシェ法については良い資料が邦訳されていないので、いろいろと資料を収集していた。最近J・ブーシェの著した『生物学的農法の実践概論』という著作をフランスのオークションから入手したが、小冊子のわりに30ユーロもしたのには閉口せざるをえない。前回のアカデミーの会議報告書もそうだが、ユーロ高には悩まされるところではある。
この著作の中でブーシェは、植物の生育のための有機窒素分を確保するために堆肥やマメ科の作物の植付けなどを教示している。またバイオダイナミック農法やインドール式堆肥で知られるハワード法なども参考にしており、とくにC/N(炭素/窒素比)はハワード法に倣っているようである。
しかしそれだけであるなら昔ながらの自然農法との差異はない。やはりレマール・ブーシェ法の根幹は元素転換を活性させるというカルマゴルの使用にある。
このカルマゴルについては以前にも記したが、ケルヴランとの明確な関連はつかめていない。しかしケルヴランが『自然の中の元素転換』で引用している微生物学者J・カウフマンが行なったカルマゴルの原料であるイシモを使用した実験を行なっており、ブーシェもその実験については知っていたようである。これはおそらくケルヴランからの情報に基づいているのだろう。
ところで最近面白いことに気づいたのだが、このレマール・ブーシェ法の栽培技法としてアロマセラピーが使用されていたらしいのである。
アロマセラピーとはご存知のとおり、芳香物質のエッセンスを使用してヒーリング効果をもたらすものだが、レマール・ブーシェ法では三種類の芳香物質を栽培植物に散布していたらしい。そしてこれによって間接的に収穫を増加させることができるという。
かつてフィトンチッドという言葉がはやった時期があったが、生態系における芳香物の役割については未解明な部分も多い。その中の一部には防虫効果をもつものもあるので、エコロジーな防虫処理としては有効な技法なのかもしれない。
こうしてみるとレマール・ブーシェ法はバイオダイナミック農法と興味深い対照を示している。バイオダイナミック農法はいわば占星術的・ホメオパシー的傾向をもつのに対してレマール・ブーシェ法は錬金術的・アロマセラピー的要素をそなえた農法と言えるだろう。
そしてこれらの農法に対して、あの錬金術師がどのように関わっていたのかも次第に明らかにしていきたいものである。
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