Livre russe
キエフ・グループの第一作『生体系における同位体の元素転換と核融合』についての余談ではあるが、この著作はあの「シーザーの獅子」にも送っている。
かつてケルヴランと4年間にわたって論争を繰り広げたレオン・ゲゲンは、今なお元素転換の完全な否定論者ではあるが、度重なる私の質問に回答を拒むことなく、なおかつ当時の貴重な資料まで送付してくれた。
ケルヴランと彼の論争記事も興味深いものだが、その中でも出色はエニン報告のオリジナルである。彼のケルヴランに対する反証実験を農学アカデミーに報告したエニン報告はアカデミーの会議報告書に記載されているが、当時農学アカデミーはその会議報告書をリーフレットにして関係者に配布していたらしい。その配布されたリーフレット自体をゲゲンは私に送ってくれた。これはフリタージュ研究の沿革においても第一級の資料である。
さらにデスター報告に関する調査にまで協力してくれたゲゲンに、私は何か礼をしたいと考えていた。しかし、私が翻訳したケルヴランの著作を送っても意味のないことはわかっていた。ゲゲンは日本語を読めないし、第一ケルヴランは今なお彼の宿敵なのだから。
そこで思案したあげく、キエフ・グループの研究書を送ることにしたのである。"Livre russe(ロシアの著作)"というメールが彼から届いたのはおよそ半月後のことだった。それを少し引用してみることにしよう。
"Bon jour ! Je vous remercie vivement de m'avoir offert le livre de Vysotskii et Kornilova que j'ai bien recu."
"Je suis plus inquiet de voir que les auteurs de ce livre font reposer leur theorie sur les seules preuves fournies par Kervran et Komaki ! C'est peu !...Je ne peux donc pas accorder beaucoup de credit a un livre qui ne fournit pas d'autres preuves plus credibles de transmutations."
このメールを読んで私は、「さすがシーザーの獅子だな。」と悦に入った。科学者もやはり人間である。自分と意見を異にする者とは関わりあいたくはないだろう。
ゲゲンはフリタージュの完全な否定論者ではあるが、彼の批判的論点には学ぶ余地がある。だからこそ私は、これまで彼の見解に耳を傾けてきたのである。それはケルヴランの著作も論文も読んだことがないのに彼の研究を語る者や、それを無前提に盲信する人々の言葉とは比較にならないものがある。
そしてそういう人々を沈黙させる手段はただ一つ、真実を明らかにする以外に道はないのだろう。
| 固定リンク
コメント