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2006/10/10

消された公文書

「異端審問」の記述によると、デスター報告は1969年1月22日のフランス農学アカデミーの会議報告書に収録されているという。そこでゲゲンにこの会議報告書を調べてもらうように依頼しておいた。

先週末にゲゲンは、アカデミーの図書館から借りた会議報告書をスキャンしたファイルをメールに添付して送ってくれた。ようやくデスター報告が手に入ると期待してファイルを開けてみた。
しかしそこにあったのはほんの数行にみたないデスター博士のコメントだけだった。
「・・どういう了見だ。ゲゲン?」
「異端審問」も前半部の翻訳は終わっている。そこに記述された内容によると、ケルヴランが報告した実験に対してデスター博士以外の出席者も具体的な討議を行なっているはずである。こんな短いコメントがデスター報告であるはずがない。

ゲゲンによると、この日の会議で公表された論文はなく、送付したデスター博士のコメント以外の記載はなかったという。
こちらも趣味道楽でやっているわけではない。私はゲゲンに、以前送ったファイルの中にある論文No.3(「異端審問」)の記述を確認してほしいと伝えた。この日の会議にデスター博士によってケルヴランの実験は報告されているはずなのである。

ゲゲンは「ブルターニュ人より頑固な日本人がいるとは思わなかった。」と返してきた。長年にわたって論争を繰り広げたケルヴラン、そしてゲゲン自身もブルターニュ出身なのである。
しかしやはりこれ以上の記述はなく、博士のコメント以降はヤシ科の植物の病気にテーマが移っているという。

私はエニン報告のある記述を思い出した。それによると「異端審問」の公表には物理化学分野の出席者全員が反対したという。そしてエニン教授によると「わがアカデミーの規則には、こうした状況に由来する不都合を避けるための条項が存在する」という。
つまり、根拠不十分と思われる実験報告がなされた場合には、アカデミー会員の総意によってそれを公式記録から抹消することができるということらしい。

おそらくデスター博士のコメントだけが不自然な形で残っていたのも、このような抹消処理がなされたためではないだろうか。そして博士からその通知を受けたケルヴランは再度実験をやり直して「異端審問」に臨んだのかもしれない。
はたしてデスター報告がどのような内容だったのか、そしてなぜアカデミーの公式記録から抹消されたのかは今となっては知るよしもない。しかしこの事実は、ケルヴランと農学アカデミーとの激しい対立を物語るものといえるだろう。

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