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2006/10/15

悪魔の弁護人

デスター報告の件で折り合いが悪くなったわけではないが、それ以来ゲゲンとの連絡は途絶えている。私は協力してくれたことに感謝の意を伝え、何か新しいことがわかれば知らせてほしいと頼んでおいたが、目新しい事実は出てこないのだろう。「シーザーの獅子」との二回戦終了という感じである。

「異端審問」を再度読み直してみるとデスター報告が抹消されたことについての明言はないが、そのような文脈から捉えかえすと改めて理解される部分もある。

デスター博士は1967年にもケルヴランの論文を農学アカデミーに紹介しており、この論文はすでに翻訳もすませている。そのときにも若干の議論が交わされており、植物学者のウルリッヒなどが批判したケルヴランの実験に対して、デスター博士はわりと寛容な態度で接している。

ちなみに1970年2月に行なわれた「異端審問」には、デスター博士は「容態が思わしくないため」欠席している。良き理解者を失ったケルヴランは孤立無援の状態で、この「異端審問」に臨んだわけである。

論文紹介後にノエルアンに発言を促されたケルヴランは、農学アカデミーの列席者を見わたして次のように言い放った。「私は、よろこんで悪魔の弁護人を引き受けよう!」

なかなか不敵な第一声だなと思っていたが、およそ一年前に自分の論文公表を闇に葬ったアカデミーの面々を前にした宣戦布告ととらえるなら、そのときの並々ならぬ空気感も伝わってくるというものである。

錬金術師にしてみれば、お前たちの腹の底はわかっている、それを承知のうえで私はこの闘いに臨んでいるのだという、静かだが激しい決意がこめられていると言えるだろう。

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