一酸化炭素中毒のケース
核子クラスターの異性化反応の可能性について少し検討してみたが、ケルヴラン自身がそのような記述を残しているところはこれまでのところ見出されていない。しかし、当然様々な酵素反応については知っていたと考えられるので、そのような考えを抱いていた可能性もある。
そのような関連としてケルヴラン自身の研究の中で少し気になるのは、一酸化炭素中毒における元素転換である。これは高熱によって活性化された窒素分子が体内で一酸化炭素に変化するというもので、元素転換の代表的な反応例としてしばしば取り上げられる。
しかしこの反応を実験的に検証することはなかなか難しい問題である。『ルジネ・ヌーヴェル』という当時の産業誌に掲載された論文においてケルヴランは、溶接作業員の一酸化炭素の血中濃度を公表している。そして中毒死した作業員の検死では亜酸化窒素中毒ではなかったとされているが、その他の窒素酸化物による影響は全くなかったのだろうか?
またこうした溶接作業にはアセチレンバーナーが使用されているが、アセチレンは炭化水素化合物の一種で3000℃以上の高熱をたやすく得られる特徴をもっている。アセチレンの分子はH-C-C-Hという構造だが、二つの炭素同士は三重結合をしている。そして面白いことに窒素分子も三重結合をしているのである。
有機化学の分野ではアセチレン誘導体が白金やパラジウムと接触還元反応を示すことはよく知られている。窒素分子が鉄を触媒として一酸化炭素分子に転換するというケルヴランの見解は、もしかするとこうした反応に想を得たものかもしれない。
ともあれ、窒素が一酸化炭素に転換するためには分子内部で水素ではなく重水素が移動する必要がある。これはフリタージュの体系の中でも特異な反応といえるものである。その意味では窒素とアセチレンの奇妙な類似性に着目して再検討を試みることも悪くはないだろう。
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