2018/07/15

MCTによるメスバウアー実験

ヴィソツキー博士は大腸菌や酵母だけではなく共生培養菌のMCTを使用してメスバウアー実験を行なっており、その論文は『生体系における同位体の元素転換と核融合』に収録されている。その実験結果によると、MCTによる元素転換反応によって乾燥菌体1g当たり9.45×10^-5gの鉄57が生成されたという。

ここで少し簡単な計算をしてみよう。鉄57の原子質量単位は56.9353983uであり、1u=1.66053873×10^-27kgである。すると鉄57の原子1個の質量は9.4543431×10^-23gになり、9.45×10^-5gの鉄57の原子数は10^18個、すなわち100京個に相当する。

MCTの実験期間は20日なので、1日に生成された鉄57の原子は5京個、1時間では2083兆3333億個、1分では34兆7222億個、1秒当たり5億7870万3700個の鉄57の原子がわずか1gの微生物の中で生成されたことになる。つまり1秒間に数億レベルの元素転換反応が生じているということである。

にわかに信じられないこの事実が示していることは、鉄57は偶発的に生成されたのではなく、微生物が特定の目的の下に組織的かつ継続的にフリタージュ反応を実現させるシステムを構築したということである。

問題はそのようなシステムがどこに存在するのかということだが、これまでの知見を踏まえて検討してみることにしよう。

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2018/07/06

三つの分岐路

大腸菌の鉄応答レギュレーターFurからマンガンのレギュレーターMntRにフィードバックシグナルが送信されて元素転換反応が生じたと仮定しよう。それは一体どこで、またどのようなプロセスで生じたのだろうか?これには大きく分けて三つの可能性が考えられる。

(1)細胞の外部でシデロフォアがマンガンをキレート化してフリタージュ反応を生じ、そこで生成された鉄57がシデロフォアのレセプターから吸収された。
(2)細胞膜のペリプラズム領域のレセプターにおいてマンガンと重水素が融合して鉄57が生成された。
(3)細胞内部のオルガネラにおいてフリタージュ反応が生じて鉄57が生成された。

いずれの可能性も実験的に検証することは必要だが、(1)の可能性はかなり低いと思われる。

シデロフォアは「鉄を運ぶもの」を意味するギリシャ語だが、Fe3+以外のイオンとの親和性は非常に低い。シデロフォアと結合したトランスポーターはペリプラズム領域でFe3+をFe2+に還元して細胞内部に誘導するが、生体組織が本来必要とするFe2+もシデロフォアとの親和性が低いのは進化の皮肉と言えるだろう。
したがってFe3+をキレート化する能力に特化されたシデロフォアがMn2+をキレート化する可能性はかなり低いものと考えられる。

それでは(2)と(3)の可能性はどうだろうか?拙速に立論を進めるのではなく、しかるべき迂回策を講じることにしよう。

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2018/06/26

フリタージュの実験的課題

フリタージュ反応のもう一つの公理、それは「元素転換反応はその生物にとって必要不可欠なプロセスとして生じる」というものである。ここで注意してもらいたいのは、フリタージュ反応は必ずしも必要な元素を生み出すためだけではなく、反応プロセスそのものに意味があるということである。

これについてはいずれ生物学的アノテーションの問題として検討したいと思うが、メスバウアー実験にこの公理を当てはめると、元素転換反応が生じたのは細胞内の鉄濃度を上昇させるためであると考えることができる。

問題はそれがどのような形で生じたのかということだが、シデロフォアのレギュレーターのFurは鉄分欠乏の危機を把握していたはずである。大腸菌は最適な培養条件では20分で細胞分裂を繰り返すことができるが、鉄分がなくなると細胞分裂が停止するという最悪の事態に陥ることになる。

この危機的状況においてFurはフリタージュという最後の切り札を使うために、マンガンのレギュレーターであるMntRに何らかのフィードバックシグナルを送っているはずである。
MntRはマンガントランスポーターの遺伝子を制御しているレギュレーターであり、Mn+d=Fe57という転換反応に重要な役割を果たしていると考えてよい。このFurとMntRのレギュレーター間のシグナルを検出することが、フリタージュ反応の実体的なメカニズム解明の第一歩になるだろう。

しかしながら現代の分子生物学では金属応答レギュレーターが相互にシグナルを送受信するという事実を示す研究例は報告されていない。元素転換反応のメカニズムを明らかにするためには、このような実験的課題をクリアする必要があるのである。

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2018/06/19

シデロフォアの遺伝子クラスター

メスバウアー実験に使用された培養基には鉄分がほとんど含まれていなかった。そのため大腸菌も酵母もシデロフォアを合成して鉄イオンを獲得しようとしたはずである。

ちなみに大腸菌はエンテロバクチン、酵母はフェリクロームというシデロフォアを生合成するが、エンテロバクチンはカテコール型であり、フェリクロームはヒドロキサム酸型である。つまり大腸菌と酵母のシデロフォアを合成する遺伝子クラスターにはゲノム的相同性はないものと考えられる。

大腸菌の環状染色体にコードされているエンテロバクチンの遺伝子クラスターはFur (Ferric uptake regulator) という転写因子によって制御されている。

DNAに含まれている情報が遺伝子として機能するためには情報の転写・翻訳というプロセスが必要である。DNAのプロモーター領域に結合したRNAポリメラーゼは塩基配列の情報を転写して、それをリボソームで翻訳し、蛋白質合成プロセスに置換している。これが分子生物学でいうところのセントラルドグマである。

大腸菌のような原核生物では微量元素、すなわち各金属イオンに特異的に応答するシステムが確立されており、Furは細胞内の鉄濃度をモニターして遺伝子クラスターのプロモーターを制御している。つまりシデロフォアとその外膜レセプターもFurによる構造遺伝子の情報転写によって生合成されているのである。

しかしメスバウアー実験ではシデロフォアを合成しても鉄イオンを吸収することはできなかった。はたしてそこで何が生じたのだろうか?

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2018/06/12

主要元素と微量元素

生物が生存のために必要とする生体必須元素には主要元素と微量元素がある。主要元素はH,C,N,O,P,S,Na,Mg,K,Caといった比較的軽い元素が中心であり、DNAやアミノ酸、蛋白質の成分を構成したり、細胞内外のイオンとして様々な役割を担っている。ちなみにケルヴランが元素転換の対象としていたのもカルシウムまでの生体必須元素であり、これはドクターの研究との大きな相違点と言えるだろう。

それに対する微量元素にはV,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Wなどがあり、遷移金属が多く含まれている。メスバウアー実験ではMn+d=Feという反応が確認されているが、他の微量元素も同様の元素転換反応を生じている可能性もある。この点についてはメタロミクスの観点から将来的にアプローチすることができるかもしれない。

微量元素としての鉄の役割については先述のとおりだが、こうした微量元素は特定の濃度範囲で有効に作用するので、微生物は細胞内の鉄濃度を常にモニターして緻密な制御を行なっている。

もし細胞内の鉄濃度が危険水域まで減少すると、微生物はシデロフォアという化学物質を合成するようになる。このシデロフォアは外部環境の鉄イオンを取りこむために分泌されるものだが、鉄イオンをキレート錯体として吸着し、細胞外膜のレセプターと結合して送りこむ役割を担っている。

シデロフォアは官能基の種類によって(1)カテコール型(2)ヒドロキサム酸型(3)α-ヒドロキシカルボン酸型に分類されるが、三種類しかないということではない。これまでに500種類以上のシデロフォアが発見されており、微生物によって異なる化学構造のシデロフォアが産生されている。

なぜこれほど多様化したのかという原因は、地球と生物の歴史をひもとく必要がある。
鉄には2価のイオンと3価のイオンがあるが、原始地球の海洋には水溶性のFe2+が豊富に溶けこんでいて生物はそれを自由に利用していた。ところがシアノバクテリアによって酸素が増加していくと、Fe2+は酸化され、不溶性のFe3+として沈殿するようになった。そこで土壌に含まれるFe3+を奪いあうようになった微生物は自分だけが吸収できる化学構造のシデロフォアを合成するようになり、細胞分裂に必要な鉄分を確保するようになったのである。

こうしてみると鉄の歴史は生物の闘いの歴史であり、進化とは環境の変動に対する適応以外の何ものでもないことが理解されるだろう。

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2018/06/03

鉄の星に生まれて

メスバウアー実験によって鉄が生成されたということは、生物にとって鉄が必要不可欠な存在だからである。

地殻に存在する元素の存在比を示す指標としてクラーク数というものがあるが、鉄は酸素、珪素、アルミニウムに続いて4番目に多い元素である。マントルや地球の中心核にも鉄が含まれていると推測されているので、もしかすると地球最多の金属といえるかもしれない。そのように普遍的に存在する元素に適合する形で、生物のシステムが形成されていったと考えても不自然ではない。

鉄は遷移金属の中でもイオン化傾向が高く、非常に反応性に富んだ元素である。原始の地球には酸素が少なく、ある種の微生物は鉄呼吸をしていたとされている。私たち人間の体内で鉄分を含む血液が酸素を運搬しているのはその名残りだろう。われわれは酸素を呼吸していると思っているが、実際には体内で鉄呼吸をしているのである。

そのような鉄は生存に不可欠な微量元素の一つだが、血液のヘモグロビンやラクトフェリン、トランスフェリンと結合しているだけではない。鉄硫黄クラスターとして代謝作用を促進したり、酵素の金属触媒としても重要な役割を果たしている。たとえばDNAのパーツを合成する還元酵素、リボヌクレオチド・レダクターゼもその一つである。つまり鉄がなければ生物はDNAの合成も細胞分裂も不可能になるのである。このような鉄と微生物の関係性をさらに詳しく検討していくことにしよう。

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2018/05/27

大腸菌と酵母

メスバウアー実験に使用されている大腸菌と酵母はモデル生物として広範に研究が行なわれており、ゲノム配列も解明されている。しかしこの両者に共通点を見出すことはかなり困難である。

大腸菌のゲノムは464万塩基対であり、酵母のゲノムは1206万8千塩基対である。つまり酵母のゲノムサイズは大腸菌の約2.6倍に相当しており、両者にはGcpオルソログのような相同性をもつ配列も知られているが、それらは機能未知遺伝子として研究が続けられている。

大腸菌のゲノムは1本の環状染色体に含まれていて核を持たないが、酵母のゲノムは16本の線状染色体に含まれていて核内に収められている。原核生物の大腸菌は二分裂によって個体を増やしていくが、真核生物の酵母は有糸分裂によって増殖する。当然ながらそれぞれの細胞分裂を制御するシステムも全く異なっている。

さらに大腸菌と酵母ではDNA情報の転写メカニズムも似て非なるものがある。環境条件の変化に対応するため、原核生物のゲノムにはオペロンと呼ばれる遺伝子クラスターが形成されており、RNAポリメラーゼがオペロンのプロモーター領域に結合することによって転写制御が行なわれている。しかし真核生物のゲノムでは複数の染色体にレギュロンと呼ばれる遺伝子が分散しており、様々な転写因子によってより高度な転写制御が行なわれているのである。

このように大腸菌と酵母は細胞の構造も遺伝子発現の機能も異なっており、元素転換に限らず同じ生化学的プロセスを生じるとは考えにくい。唯一の共通点は、両者はいずれも生存のために鉄を必要としているということである。この鉄と微生物の関係性について次に見ていくことにしよう。

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2018/05/18

フリタージュの公理

1989年のM・フライシュマンとS・ポンズの常温核融合の発見に啓発を受けたドクターは、同僚の物理学者R・N・クズミンと固体結晶におけるコールドフュージョンの研究を開始した。そして1991年の国際会議でそこにおける重水素の異常な作用について報告している。

Block_image_2_1_4すでにケルヴランの研究を知っていたドクターは同様のプロセスが生体組織でも生じているのではないかと考えた。そこでモスクワ大学のA・A・コルニロバ博士、ガマレヤ研究所のI・I・サモイレンコ博士の協力の下に生物学的元素転換の研究を本格的に進めるようになった。その成果は数々の論文や『生体系における同位体の元素転換と核融合』に収録されている。フリタージュ反応を包括的に理解するには、まずドクターがこれまでに行なった研究を精査する必要がある。

比較的初期に行なわれた研究の一つとして、マンガンから鉄57が生成される元素転換実験がある。この実験は一見思いつきで行なわれたように見えるが、実際は綿密に検討されたプロトコルに基づいている。

鉄はあらゆる生物が必要とする微量元素でありながら生体内で合成することはできない。また鉄57は常温でメスバウアー効果を生じる稀少な同位体である。ドクターはキエフ大学在学時にV・I・ヴォロンツォフ教授の指導の下にメスバウアー効果をテーマとする修士論文を提出しており、メスバウアー分光法には精通している。従ってこの実験データは非常に信頼性が高いと考えることができるのである。

このメスバウアー実験で注目すべきことは、酵母・大腸菌・放射能耐性菌といった異なる種類の微生物が使用されており、転換効率は異なるが、いずれもMn55+d2→Fe57というフリタージュ反応が検出されているということである。

酵母は通性好気性の真核生物、大腸菌は通性嫌気性の原核生物、放射能耐性菌は好気性の真正細菌である。もしこれらの微生物が同じ元素転換反応を生じているとすれば、次のような公理が導き出されることになる。

「フリタージュ反応は細胞の構造や分裂形式、呼吸形態等に依存しない普遍的な反応である」

はたしてこの公理は本当に正しいのだろうか?その答えを求めてさらに問いを深めることにしよう。

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2018/05/13

フリタージュ研究の深層

第3回フリタージュ会議ではドクターの講演に加えて私個人の見解も補足的に解説したが、参加者の方には少し難しい印象を与えたかもしれない。しかしそろそろ次の段階に歩を進めるべきだろう。私たちは他の追随を許さないレベルまでフリタージュの本質を追究しなければならない。

ドクターはこれまで様々な微生物を使用して多岐にわたる元素転換実験を行なっており、その成果は数々の論文や『生体系における同位体の元素転換と核融合』に記述されている。しかしそれらの内容を受動的に読んだだけでは本質的に理解したとは言えない。その研究背景を踏まえた上で、いかなるアプローチが可能なのかを様々な角度から検討する必要がある。

たとえばドクターは大腸菌や酵母、共生培養菌のMCTやメタン菌を使用して元素転換実験を行なっているが、これらの微生物について少しでも調べたことのある人はいるだろうか?私は誰一人いないと思う。

微生物は好気性と嫌気性、原核生物と真核生物、独立栄養と従属栄養など様々な分類方法があり、また真性細菌、古細菌、真核生物といったドメインにはそれぞれの特徴がある。このようなことは微生物学の基礎だが、こうした基礎知識も知らずにドクターの研究を理解したつもりになってもらっても困るのである。

かなり以前の話だが、ある人はサイト上でドクターの研究を「好気性メタン菌による元素転換実験」と紹介していた。残念ながらメタン菌は全て嫌気性であり、好気性メタン菌など存在しない。その人はメタン菌のことも知らず、ドクターの研究内容も理解しておらず、タイトルを間違えて翻訳してさも知っているようなことを書いていた。人間恥を恥と思わなければ、恥をかくことはないようである。

ドクターが使用している微生物について調べると、当然のことながら様々な疑問が湧いてくるはずである。
たとえば大腸菌は嫌気性の原核生物であり、酵母は好気性の真核生物である。原核生物と真核生物は細胞の構造や分裂形式が異なり、ゲノムサイズも遺伝子の転写制御メカニズムにも格段の差がある。それなのに大腸菌と酵母はなぜ同じフリタージュ反応を生じることができるのか?

少なくとも私はこのような質問を誰からも受けたことがない。それはドクターの研究に表面的な関心はもっているが、誰一人としてその本質を真剣に追究する者がいないことの証左でもある。

私たちはもはやそんなレベルの「ごっこ」に付き合っている暇はない。はたしてフリタージュの本質的なメカニズムの解明にいかなるアプローチが可能なのかを今後検討していきたいと思う。

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2018/05/04

水とガラスのメモワール

Glass_pole4月下旬、荒川尚也氏の個展が倉敷で開催されるというDMを受け取ったので、会場のギャラリーに足を運んだ。荒川氏は京都在住のガラス工芸家だが、2年前の個展にも参加していろいろとお話を伺ったことがある。

個展会場のギャラリーに着くと様々なガラス作品が展示されていた。日曜日だったがそれほど人も多くなかったのでゆっくりと作品を鑑賞することができた。荒川氏のガラス作品は、珪砂から可能なかぎり不純物を除去した透明度の高いガラスに特殊な技法で気泡が封入されている。それは流れている水がそのままの形で固まったような流動性と結晶性が感じられる作風である。

久しぶりに荒川氏とお会いして、作品の制作工程やガラスの成分組成・膨張率や徐冷のときの温度管理など興味深いお話を伺った。特に興味深かったのは、荒川氏の知人に日本酒の杜氏をしている人がいて、ガラス瓶から溶け出す微量成分によってお酒の味が変わることがわかるという話だった。

昼下がりのギャラリーでゆったり寛ぎながら、私は水とガラスの相似性について思いを巡らせていた。水が生物界の底流を支えているように、ガラスは鉱物界の代謝作用を司る存在である。水がシューマン共振によってクラスレート構造を形成するように、ガラスも地震波の影響などによって水晶に相転移することもあるのかもしれない。

現に珪素を含むシリコン・クラスレート化合物も存在しているので、水と同じようにガラスも太古の記憶を保持しているのかもしれない。古代の勾玉がガラスで作られていたのも何らかの意味があるのだろう。

Dsc_0002荒川氏との会話からいろんな着想を巡らせたあとにガラス作品を数点頂いて個展会場を後にした。しばらくはその器で杯を重ね、水とガラスの瞑想を深めたいと考えている。

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